浜松市「慎重さ欠き不十分」 昨秋、天竜区での土砂崩落 検証会最終報告

 2022年9月の台風15号に伴い、浜松市天竜区緑恵台で発生した土砂崩落について、無届けの盛り土の形成を止められなかった経緯を検証する市の行政対応検証会(座長・村越啓悦弁護士)が7日、最終報告書を市ホームページで公表した。近隣住民から市に相談が寄せられていたのに、詳しく調査せず、盛り土の所管課への情報共有もしていなかったとして「慎重さを欠く不十分な対応だった」と結論づけた。

 村越座長が同日、市役所で記者会見して説明した。検証の認定事実によると、盛り土の崩落前に近隣住民から3回市に相談があったが、それぞれ盛り土の担当でない職員が対応し、「崩れる危険性は低い」などと判断して詳しい調査をしなかった。
 斜面に「残土捨て場」との看板を立てていた土地所有者や家族に職員が口頭で指導したが、県土採取等規制条例に基づく届け出がされず、安全対策も講じられなかった。
 検証会は「私有地での行為は原則、所有者の自由であり、制約には根拠法令が必要」として、届け出がない段階で市が措置命令など実効性ある対応に踏み切ることは困難だったと指摘。各職員の対応が口頭指導にとどまった点は「やむを得ない部分もある」とした一方、「情報が盛り土の担当課に伝わっていれば盛土総点検の対象に入り、対策につながった可能性がある」と市の組織連携の欠如を批判した。土地所有者に対しては、「県条例に基づく届け出の義務があった」として、無届けが法令違反に当たるとの見方を示した。
 この災害では斜面下側の住宅3軒が被災し、3人が負傷した。今回の検証に対し、複数の被災者が「委員が直接被災者に聞き取りをせず、市の資料を基に進められた」と不満を示した。一部の被災者は7日に自宅へ報告書を届けに来た職員に対して、受け取りを拒否したという。
 妥当性「議論なし」 盛り土総点検対象外で検証会  2022年9月の台風15号に伴う浜松市天竜区緑恵台の盛り土崩落を巡り、浜松市が設置した行政対応検証会の村越啓悦座長(弁護士)は7日の記者会見で、盛り土崩落で28人が死亡した21年7月の熱海市伊豆山の土石流を受けて国が求めた「盛り土総点検」で緑恵台の盛り土を対象にしなかったことに関し、「対象の絞り込みが妥当であったかは(検証会で)議論していない」と説明した。
 盛り土総点検は再発防止のために熱海土石流の翌月に国が通知を出し、自治体に対して無届けを含む盛り土を把握した上で「災害防止の必要な措置が取られているか」「許可・届け出等の必要な手続きが行われているか」などをチェックするよう求めた。緑恵台の盛り土は浜松市が把握していたのに点検対象から漏れていて、市による総点検の妥当性は検証作業で重要な論点になるとみられていた。
 一方、検証会は、緑恵台の盛り土が15年5月ごろまでに、県土採取等規制条例の規制対象になる面積千平方メートル以上だったと認定した。村越座長は、総点検の対象に含めるかは「市に裁量のある部分」とし、住民からの相談を記録した文書の引き継ぎがされていなかったことに関しても「(市の)ミスとまでは言えない」と述べた。
■行政対応検証会・報告書の主な指摘

・相談を受けた市職員らは現地確認と土地所有者への事情聴取、口頭指導にとどまり、それ以上の調査を行わなかった
・職員は地盤工学の知識のある者ばかりでなく、現場で対応した際に疑いを持てなかったとしてもやむを得ない面がある
・市の特定部署が得た情報が他部署に伝わらないことで、組織として不十分な対応にとどまり、行為を中止させられなかった
・経緯を記録化し、共有する体制があれば、盛土総点検の対象に加えられる余地があった

■記者の目=行政の苦慮 熱海にも類似
 浜松市の行政対応検証会が7日公表した最終報告書は、市の対応に対して「組織内の情報共有があれば専門知識のある職員による効果的な対応につながり、総点検の対象にも加えられた可能性がある」と結論づけた。盛り土行為を主導したとみられる土地所有者に大きな責任があるものの、市の対応次第では防げた災害だったと読める。
 検証の論点は、市は措置命令など実効性ある対策を取り得なかったのか、総点検の対象に入らなかったのはなぜか―などの43項目。委員5人は法律家や技術者の立場から検討し、結論を導いた。当時の法令は“抜け穴”が多く、行政が対応に苦慮せざるを得なかった。土木の知識がある職員は限られ、ただちに危険性に疑いを持てなかった職員がいたのもやむを得ない-。報告書には、そんな市の事情もくんだ印象の記載が目立ち、法の不備に起因する問題は熱海の土石流災害にも通じる部分がある。
 ただ、被災者にとってみれば、再三不安を市に訴えていたのに、懸念通りの災害が起きている。特に「やむを得ない」との報告書の記載には到底、納得できないだろう。報告書の検証に漏れはないのか、市民の視線は厳しい。
 (浜松総局・宮坂武司)

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