後継者不足の水産業、AI活用で後押し エフ・シー・シー(浜松)「ドウマン」養殖参入へ

 四輪、二輪用クラッチのトップメーカー、エフ・シー・シー(浜松市北区)は、「ドウマン」の名で知られる浜松地域特産ノコギリガザミの養殖に乗り出す。自社工場で製造する部品の点検や異常検出で導入するAI技術を応用する。水槽内の観察カメラと自動給餌機を組み合わせたシステムを開発し、効率的な成育を促す。将来は種苗生産や稚ガニの海洋放流による天然資源回復も目指す。

県水産・海洋技術研究所の職員(中央)から、ノコギリガザミの成育について研修するエフ・シー・シー社員=8月上旬、焼津市鰯ケ島
県水産・海洋技術研究所の職員(中央)から、ノコギリガザミの成育について研修するエフ・シー・シー社員=8月上旬、焼津市鰯ケ島

 自動車の変革期に対応した新規事業創出の一環で、高齢化や担い手不足が課題の地元水産業を、製造業が日頃取り組む省力化や生産性向上の観点から後押しする。出荷や販売を含め約5年以内の事業化を見据える。国内の産業ベースでのノコギリガザミ養殖の成功事例はほぼ無いとみられる。
 甲殻類の個別飼育の研究実績を持つ県水産・海洋技術研究所(焼津市)の協力を得る。稚ガニから成体までの成育方法の研修を受けた上で、年内にまず自社工場の一角で、100匹程度の稚ガニの成育を開始する。縦20センチ、横30センチの水槽をベースにした試作の個別飼育棚を作り、カメラと給餌機を組み合わせたユニットが上部を行き来する。撮影画像で水の濁りにつながる残餌(ざんじ)量などを確認してAIに学習させ、適切な餌量を自動で与えて成長の最大化を図る。
 「幻のカニ」とも称されるノコギリガザミは国内で漁獲水域が限られる高級食材。通年生産や安定供給で価格が下がる養殖が期待されるが、共食いの習性があって大量成育は難しいとされる。稚ガニ段階から一匹ずつ個別水槽で育て、餌を与える必要があり、採算ベースの生産には省スペースや省コストといった生産効率化が欠かせないという。
 生産技術が専門分野で、今回のプロジェクトリーダーを務める土屋彰範さんは「養殖の事業化が成功すれば、観光資源化や雇用の創出にもつながる。地元の漁業者とも連携し、持続可能な稼げる漁業を実現したい」と語る。
 事業は、世界に農水産品の販路を持つ西本Wismettac(ウィズメタック)ホールディングス(東京)とコンソーシアムを組んで取り組み、県の本年度の「MaOI(マオイ)プロジェクト事業化促進事業」に採択された。浜松地域で直接海水を引ける施設設備の保有者など、事業の参画者も募っている。
 (浜松総局・山本雅子)

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