東静岡駅のアリーナ整備構想 30年超検討、実現なるか 静岡市長前向きも課題山積【ニュースを追う】

 静岡市がJR東静岡駅北口市有地に整備を目指しているアリーナについて難波喬司市長は8月、2023年度中に事業化を判断する方針を明らかにした。事業手法はこれから検討するとしつつ、整備自体には前向きな考えを示し、30年以上前から検討が続く市のアリーナ構想に決着がつく可能性が高まっている。静岡市のシンボルになり得る施設として高い地域活性化効果を期待されながら、紆余(うよ)曲折をたどってきた同構想。これまでの経緯を振り返るとともに残された課題を探る。

静岡市がアリーナ整備を目指すJR東静岡駅北口市有地。駅の目の前という立地の良さが特徴。赤い部分がアリーナ建設予定地=9月上旬、静岡市葵区(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)
静岡市がアリーナ整備を目指すJR東静岡駅北口市有地。駅の目の前という立地の良さが特徴。赤い部分がアリーナ建設予定地=9月上旬、静岡市葵区(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)
アリーナ整備予定地
アリーナ整備予定地
静岡市による東静岡駅アリーナ整備構想を巡る経緯
静岡市による東静岡駅アリーナ整備構想を巡る経緯
沖縄アリーナを視察する静岡市の難波喬司市長(右から2人目)=8月下旬、沖縄県沖縄市
沖縄アリーナを視察する静岡市の難波喬司市長(右から2人目)=8月下旬、沖縄県沖縄市
静岡市がアリーナ整備を目指すJR東静岡駅北口市有地。駅の目の前という立地の良さが特徴。赤い部分がアリーナ建設予定地=9月上旬、静岡市葵区(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)
アリーナ整備予定地
静岡市による東静岡駅アリーナ整備構想を巡る経緯
沖縄アリーナを視察する静岡市の難波喬司市長(右から2人目)=8月下旬、沖縄県沖縄市


 東静岡地区へのアリーナ整備計画の歴史は1991年までさかのぼる。市が県と取り組んだ東静岡駅周辺の総合整備計画の中で、駅北口市有地に多目的アリーナを建設すると明記した。2008年には老朽化した県草薙体育館の建て替えに合わせ、多目的アリーナの誘致を目指したが、09年に初当選した川勝平太知事が難色を示して頓挫。その後、市民文化会館(葵区)の再整備に伴う複合アリーナ化を検討するも実現困難として見送られた。有識者や市民による「アリーナ誘致検討委員会」が23年3月、アリーナ整備の事業構想に当たる「誘致方針」をようやく取りまとめた。

大規模興行可能に
 誘致方針では施設規模について、民間事業者の参画意欲が高く、採算が取れる可能性が高い「スポーツ興行5千席以上、音楽興行8千席以上」を目指すと決めた。最大1万席も視野に入る。これまで市内で開催できなかった最高峰のスポーツ興行や、全国ツアーを開催するような著名アーティストのコンサートの開催が可能になるとしている。一方、全国でアリーナ整備が約20カ所計画される中、興行側から「選ばれる施設」になるための具体的機能はこれから検討することになる。

事業手法は
 誘致方針では、事業手法を主に三つに絞り込んだが、最終的には市長が決断する。市が実施した市場調査の結果、民間事業者の参入意欲が最も高いのはPFI方式による公共事業だった。民間ノウハウを活用し、効率的な整備や管理運営ができるとされる。
 ただ、今夏に佐賀、長崎、沖縄各県でアリーナの視察の重ねた難波市長は「通常のPFIだと民間に任せすぎになって、あまりいいものができない」と印象を述べた。「市の考えを明確にした上で、どういった手法なら事業者が参画しやすいのか確認していく」とし、現時点では民間資本を中心に建設する手法も排除していない。

渋滞、騒音対策も
 アリーナ整備後の交通渋滞については一部地域住民から懸念の声が上がっている。市は今後、県グランシップなど周辺の駐車場との連携や市有地活用の可能性を探る。周辺には高層マンションが多く、騒音・振動対策も万全が求められる。施設建設費は100億~200億円規模とされ、市の検討委員会の議論では、公共事業で整備する場合の財政負担や経済効果を高めるための宿泊施設の拡充などが課題に挙がった。

「どうしてもつくらないと」 市長沖縄視察、整備へ強い意欲
 「これから、どうしてもつくっていかないといけないと思っている」。静岡市の難波市長は8月下旬、沖縄県沖縄市が整備した沖縄アリーナ(2021年3月完成)を視察した。沖縄市役所で面談した桑江朝千夫沖縄市長に対し、アリーナ整備に向けた強い決意を語った。
 視察では、市の担当部長や沖縄アリーナの運営会社の担当者から、設備へのこだわりや運営状況を聞き取った。説明によると、アリーナは、利用料が1室100万円で販売されることもあるスイートルームを30室そろえるなど「収益性の高い設計」にこだわったという。運営はコロナ禍にもかかわらず、開館初年度から黒字化を達成した。難波市長は「ものすごく参考になった」と、視察の手応えを語った。
 視察後の8月31日に開かれた定例記者会見でも、「競合施設が先にできて、後から参入ではもう遅い」と、スピード感を持って事業化を決断する必要性に言及した難波市長。「いつまでも検討、検討という問題ではない。もう十分時間をかけた。はっきりいうと今まで(の判断が)が遅い」と、田辺信宏前市長との違いを強調してみせた。
 一方で、検討期間が長期に及んだこともあり、アリーナ整備に向けた市民の機運が高いとは言えない状況が続く。難波市長は「高い経済効果だけでなく、市民が楽しむための文化づくりにもなる。必要性を丁寧に根拠を持って説明していく」と述べた。
 (政治部・尾原崇也)

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