富士山世界遺産10周年 登山様式 考える転機に【東部 記者コラム 湧水】

 富士山の本県側3登山道が10日に冬季閉鎖され、夏山シーズンが終わった。今季は新型コロナの行動制限が解除されて登山者数が回復した一方で、弾丸登山やマナー違反など歴年の問題は好転する兆しが見受けられなかった。事態を重く受け止めた静岡、山梨の両県知事は登山規制や入山料義務化の議論加速について言及した。世界遺産登録10周年の節目を、登山の新たな様式を考える転機にしたい。
 富士山臨時支局を開設していた8月上旬、長崎幸太郎山梨県知事が混雑時に登山規制を検討しているというニュースが山小屋に届いた。吉田口8合目付近で登山者に待機を促す可能性が浮上し、山小屋経営者らは「山頂目前の足止めは暴動が起こる。現実的じゃない」と眉をひそめた。
 外国人のマナー問題が目立った。荒天の深夜、軽装登山者が山小屋の扉をたたいて助けを求め、持ち物からはたき火をする前提のフライパンが見つかった。山小屋の周りには、外国人労働者をあっせんしている企業の名前が入ったごみが捨てられていた。従業員は逆ギレした登山者に暴行された経験から、うかつに注意できないとこぼす。
 台風接近時も登ろうとする外国人は、天気予報の見方が分からない様子だった。出発する前に、装備を調えたり気象条件を調べたりするよう周知する必要がある。現状は登山公式サイトや山麓の市街地にチラシを貼るなどして安全な登山を啓発しているが、山を目の前にして引き返す選択は酷だ。旅行会社や勤め先に事前の周知に協力を求められないだろうか。
 10周年を記念して作られた保全協力金の返礼木札が協力者に好評だった裏で、富士宮口のストラップが水色だったことに地元では違和感が漂った。登山道の色分けで同口は青色とされている。「あらゆる表記を青色に統一してきた努力が簡単に否定された」との憤りも理解できる。登山の在り方は長年議論されて結論を出すには相当な労力と覚悟を要するだろう。関係者は会議資料だけでなく、霊峰の実態にも目をこらしてほしい。
(富士宮支局・国本啓志郎)

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