大杉栄らの生き方継ぐ墓前祭、最後に 没後100年節目 憲兵隊に虐殺された無政府主義者

 関東大震災直後の混乱の中で虐殺された無政府主義者の大杉栄らが眠る静岡市葵区の沓谷霊園で、9月16日の命日に合わせて毎年開かれている墓前祭が今年の没後100年を節目に最後を迎える。遺族の高齢化から没後80年で一時途絶えたが、県近代史研究会会員の小池善之さん(浜松市東区)が中心となって実行委員会をつくり、墓前祭を再開。2013年から没後100年を目指して続けてきた。小池さんは「墓前祭がなくても、大杉らの生き方や思想は何度も振り返らなければならない。新しい形でつないでくれる人がいればうれしい」と願う。

大杉栄らが眠る墓地=12日、静岡市葵区の沓谷霊園
大杉栄らが眠る墓地=12日、静岡市葵区の沓谷霊園


「国家権力恐れぬ姿勢 振り返るべき」
 大杉と内縁の妻で女性解放運動家の伊藤野枝、おいの橘宗一は1923年9月16日、東京憲兵隊の甘粕正彦大尉らに虐殺された。いわゆる「甘粕事件」。遺骨は静岡市に住んでいた大杉の妹夫婦宅に移され、24年に同市葵区の共同墓地の沓谷霊園に埋葬された。墓前祭は労働組合や静岡大関係者らが73年の没後50年の節目で初めて開催し、90年からは静岡女性史研究の先駆者だった故市原正恵さん(同市)が中心となって2003年まで続けた。
 13年の没後90年が近づく中、市原さんは自身が所属する県近代史研究会で墓前祭を再開して100年まで続けたいと語っていたが、具体化する前の12年に亡くなった。研究会で付き合いのあった小池さんらが遺志を継ぎ再開を実現させた。
 小池さんらは市原さんのスタイルを踏襲しながら、墓前祭とともに追悼講演や寄稿集「沓谷だより」の発行も続けた。「関東大震災の時に起きた権力犯罪を総合的に考えるべきだ」と、甘粕事件と同じように関東大震災の混乱に乗じた朝鮮人虐殺や社会主義者ら10人が殺害された「亀戸事件」なども取り上げた。小池さんは「大杉や野枝は国家権力に恐れを持っていなかった。『捨て身の楽天性』を持ちながら戦い続けた生き方を今こそ、見習うべきではないか」と指摘する。
 実行委員会も今年で解散する。市原さんの息子で古書店「水曜文庫」(同市葵区)を営む実行委メンバーの健太さん(58)は「大杉と周りの人たちは人としての魅力がある。生きにくい今の世の中で彼らの生き方がヒントになると思う。墓前祭は一区切りとなるが、小さくても勉強会を続けていきたい」と見据えた。
 (社会部・吉田史弥)

16日、葵区で墓前祭 おいの講演も
 大杉栄とその内縁の妻・伊藤野枝、おいの橘宗一の没後100年に合わせた墓前祭が16日午前11時から、静岡市葵区の沓谷霊園で開かれる。
 同日午後2時からは同区の静岡労政会館で、栄のおい大杉豊さんを招いた追悼講演を開く。演題は「大杉栄という生き方―虐殺100年を迎えて」。墓前祭、講演ともに事前申し込みは不要。参加費無料だが、講演会場でカンパを募る。問い合わせは実行委員会の小池善之さん<電053(422)0039>へ。

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