「だます側」に切り込み 沼津出身原田監督の最新作「BAD LANDS」

 特殊詐欺をなりわいにする異父姉弟が、悪のはびこる世界をどう生き抜くか―。原田真人監督(沼津市出身)の最新作「BAD LANDS バッド・ランズ」は、大阪を舞台にした犯罪サスペンスだ。直木賞作家黒川博行の小説「勁草[けいそう]」が原作。映画化の権利を「辛抱強く6年待った」という原田監督は「犯罪を正当化するつもりはないが、どんどん暴力的な怖さが増している詐欺組織の仕組み、そしてその世界に身を置く彼らなりの、生き抜く意義を表現したかった」と思いを語った。

大阪で地方ロケの手応えをつかんだという原田真人監督。県内ロケにも意欲を見せる。「今いいなと思っているのは(浜松市天竜区の)水窪。ダムがあり奥まった感じがダイナミックで味がある」と話す=1日、沼津市内
大阪で地方ロケの手応えをつかんだという原田真人監督。県内ロケにも意欲を見せる。「今いいなと思っているのは(浜松市天竜区の)水窪。ダムがあり奥まった感じがダイナミックで味がある」と話す=1日、沼津市内
「BAD LANDS」の一場面
「BAD LANDS」の一場面
大阪で地方ロケの手応えをつかんだという原田真人監督。県内ロケにも意欲を見せる。「今いいなと思っているのは(浜松市天竜区の)水窪。ダムがあり奥まった感じがダイナミックで味がある」と話す=1日、沼津市内
「BAD LANDS」の一場面

 大阪・西成区で詐欺グループの受け子のリーダー役を務める姉の橋岡煉梨[ネリ](安藤サクラ)と弟の矢代穣[ジョー](山田涼介)が、億を超える大金を手にしたことで、組織のメンバーやヤクザたちの追跡をかわし、自由を求めて逃走を試みるが―。
 原田監督は2人を「より共感を得られるような色濃い関係にしたかった」と、原作では男性だった橋岡の設定を女性に変更した。「生きにくい世界をたくましく強く生き抜く」ネリ役を安藤に託した。「サクラ本人と対面して、目の輝きや表情の微妙な揺らぎがとても魅力的だった。ネリ役がキャスティングの最後のピースだったが、今までにない安藤サクラを表現するのに一番いい役になると確信した」と振り返った。
 山田は「燃えよ剣」(2021年)に続く2度目の起用。当時から今作の脚本を書き上げていた原田監督は、山田の演技に「現代版の沖田総司」としての矢代のイメージを重ねていたという。山田は姉への異常な愛を抱えた衝動的な男の役を見事に演じた。生瀬勝久、宇崎竜童、天童よしみら重鎮が脇を固め、関西弁の応酬でテンポよく物語が進む。犯罪集団と彼らを捕らえようとする警察組織の駆け引きも見どころだ。
 原作の発刊は15年。当時は特殊詐欺の手口の詳しい描写が斬新だった。「6年前の作品を忠実に映画化した結果、特殊詐欺が“過去の犯罪”になっていたらと不安があった」と原田監督。だが、手口は巧妙化し、一層深刻な社会問題となっている。「だます側の事情を見せなきゃ『だまされない』なんて言えない。今起きていることの内部をこの作品で伝えられたら」
 (教育文化部・森田美咲)

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