時論(10月13日)ポリネシアからの桜戦士

 ラグビーのワールドカップ(W杯)フランス大会を、前回までとは違う角度からも観戦している。人類学者片山一道京大名誉教授の著書「身体が語る人間の歴史」(ちくまプリマー新書)の記述に引かれるものがあったからだ。
 大柄で骨太で筋肉質。〈まことポリネシア人は、ラグビーというスポーツの申し子というような存在〉〈ラグビーは神から与えられた最大の贈り物のよう〉。西欧列強から支配の仕組みとともに移入されたものだとしても、である。
 1次リーグ最終試合では日本と同じD組でサモアがイングランドを苦しめ1点差で惜敗、C組ではフィジーが決勝トーナメントに進んだ。日本代表は運命のアルゼンチン戦に敗れ2大会連続ベスト8はならなかったが、前半16分、トンガ出身の巨漢アマト・ファカタバ選手の60メートル激走トライには身を乗り出した。
 人種はあくまで生物学的概念であることに注意が必要だ。国民や民族とは違う。片山氏は、人類(ホモ・サピエンス)を「あえて」大別するならモンゴロイド、ニグロイド、コーカソイドと説く。
 ポリネシアの島々で調査を重ねた片山氏は、日本語とポリネシア語は発音の面で共通する特徴が少なくないと著述する。「海のモンゴロイド」とも表現している。大柄で筋肉質な身体的特徴は、体格のいい者が選ばれて海に出て、子孫が拡散した結果という考察は、モンゴロイドの日本人と対比すると、より興味深い。
 ラグビーは、五輪など「国籍主義」ではなく、「協会主義」により一定条件を満たせば外国出身選手も代表になれる。こういうシステムが「あってもいい」ではなく「あったほうがいい」と改めて思った桜の戦士たちの躍動だった。
(論説副委員長・佐藤学)

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