浜松市天竜区水窪地区 本気の仮装に広がる笑顔 みさくぼ祭り4年ぶり復活【わたしの街から】

 浜松市の中心部から車で北へ約1時間半、長野県との境に近い谷筋に集落が現れる。同市天竜区の水窪地区(旧水窪町)だ。コロナ禍が落ち着いた今秋、町最大のイベント「みさくぼ祭り」が4年ぶりに通常開催され、目玉プログラム「仮装コンクール」も復活した。住民が商店街や住宅街に集い、奇抜な衣装と滑稽な寸劇を披露する。互いに楽しませようと工夫を凝らすこの日、通りには住民の温かな笑顔があふれていた。昭和30年代には一時1万人を超えた人口は減少し、現在は2000人を下回る。祭りの規模も縮小傾向にあるが、祭事や地域の後世を支える子どもたちを大切にする風土は変わらない。
「一休さん」の寸劇を披露するグループ 祭りの目玉、記者も挑戦
 仮装コンクールには2日間で約20組が出場。帰省客や観光客が見守る中、商店街や住宅街で寸劇、ダンスパフォーマンスなどを披露した。どのチームも個性を発揮し、会場を沸かせた。
ユニークな衣装で歌とダンスを披露  商店街の一角。お坊さん姿の数人が現れ、「一休さん」の寸劇が始まった。お坊さん同士の愉快な会話やとんちのきいたなぞなぞで観客の笑いを誘った。主人公の一休を演じたのは同町の鈴木診療院の理事長で医師の鈴木勝之さん(54)。地域の医療を支える医師である一方、行事の盛り上げにも熱心だ。「楽しんでもらうためにみんな一生懸命。どのチームも同じように目標を持って取り組んでいる」と話す。
歌謡祭のパロディーで盛り上がった会場  寸劇のセットにもこだわる。衣装や背景、街灯のオブジェなど、全部が手作りだ。「妥協はできない」と鈴木さん。表情は真剣だ。
帰省客や地元住民らが行き交う商店街  みさくぼ祭りに約70年関わっている水口利昭さん(80)は「久しぶりに盛り上がって、うれしかった。以前に比べて参加者は減ってしまったが欠かせない行事」と話す。
取材班の音声担当で仮装に参加した記者(右端)=浜松市天竜区水窪町(天竜区観光協会水窪支部提供)  仮装コンクールは、地元住民以外にも参加の門が開かれている。居住2年目の記者(28)も初日、仮装チームに参加させてもらった。寸劇は人気テレビ番組「ポツンと一軒家」のパロディーで、山あいにある民家に取材班がロケに訪れる内容。水窪の方言や特産品、青崩峠など水窪の地理の要素などをちりばめた。ロケの場面の最後には、民家に住む家族からジャガイモの在来種「水窪じゃがた」が取材班に渡された。「じゃがたは小粒だけど、みそに付けるとおいしいよ。元気で帰ってな」。親切な水窪の住民性が垣間見えるラストシーンだった。
屋台同士が近距離でお囃子をぶつけ合うように演奏する「すれ違い」=浜松市天竜区水窪町
学校行事でも地域一体 住民みんなで「水窪音頭」 水窪音頭を踊る児童。保護者からお年寄りも参加し大いに盛り上がった=浜松市天竜区水窪町  水窪地区では、子どもたちが主役の学校行事も伝統行事と同様に、地域全体のイベントとして大切にされている。9月に開かれた水窪幼稚園、水窪小、水窪中の合同体育祭には、保護者はもちろん、お年寄りを含め幅広い年代の大人が参加した。
 普段から子どもと地元住民の交流は盛んだ。子どもたちが出場する競技のほかに、大人も一部のプログラムに参加する。今年は伝統の「水窪音頭」を参加者全員で踊り、グラウンドに大きな輪を描いた。
 地区唯一の小学校である水窪小は本年度、開校150周年の節目を迎えた。11月には記念セレモニーを開く。在籍児童は25人。今年は1年生が開校以来初の0人だった。浮田佳昭校長は「これからも子どもの声が聞こえる地域であってほしい」と願う。

始まりは大正時代  みさくぼ祭りの目玉イベント「仮装コンクール」の始まりは、大正時代とされる。一部地区で披露された仮装行列が評判となり、人口の拡大に伴ってコンクール形式に変わった。人口が多かった昭和時代は100組を超えるチームが参加した。例年、お盆を過ぎて8月下旬あたりから準備が本格化する。今年のみさくぼ祭りは9月16、17の両日行われた。
(水窪支局・大沢諒)

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