スマホ・ネットの家庭内ルール どうしてる?② 有識者インタビュー【賛否万論】

 前回の賛否万論は家庭内のネット・スマホルールについて、保護者、子どもそれぞれの意見を取り上げました。今回は、子どもや大人のメディア環境に関する研究・提言に取り組むNPO法人「浜松子どもとメディアリテラシー研究所」の理事長でネット依存予防アドバイザーの長沢弘子さん(浜松市中区)に、世代を問わず多くの時間を費やすインターネットとどう関わったら良いか聞きました。
 (社会部・薬袋貴信) photo03 長沢弘子さん 「守れる約束」親子一緒に考えて NPO法人「浜松子どもとメディアリテラシー研究所」 理事長・長沢弘子さん
 長沢さんは普段、未就学児から小中高生、保護者や教職員に至るまでメディアリテラシー講座を行っていますが、具体的にはどんな活動をされているのですか。
 対象者によって時間は変えますが、約1時間でインターネットの仕組みや法律、メリット・デメリット、利用に潜む危険性などについてゲームを交えて伝えています。中高生には、SNSへの投稿を巡るコミュニケーションの難しさやネット依存、性被害を巡る課題を事例やデータで示します。保護者には、子どもと同様の内容に加え、生成AIやGIGAスクール構想など変化するデジタル環境やフィルタリングの重要性を説きます。「子どもを守る」ために何をすれば良いのか? 保護者それぞれが考えるきっかけになってほしいという思いです。“何もしない”という選択肢はありえません。

 「ネットリテラシー」を育てるには何が重要になりますか。
 ネットリテラシーはインターネットのメディア(情報媒体)リテラシー(識字力)。インターネットの情報を正確に理解し、適切に使える能力です。メディアリテラシーとの違いは受信力だけでなく発信力も含まれるということ。SNSへの投稿・ネット閲覧の善悪を自分で判断する力が重要で、ルール理解とモラルが必要になります。ルールは「決まりを守る」ことなので教えられますが、モラルは個々の判断に委ねられる部分が多く、なかなか教え諭すのは難しい部分もあります。例えば、冷蔵庫にプリンが1個だけ残っていたとします。親に「食べてもいい?」と確認するか、聞かずに食べるか。1個だけ残った理由を想像して取る行動を決める能力は家庭環境やその場面ごとの状況によって変わります。重要なのは、関わる人の感情も含めて行動の先に何が起きるかを予測することではないでしょうか。プリンの例で言えば、「他の家族が食べたいかな」とか「食べても後で買い足せばいいや」などの判断能力は日常生活で養われます。ネットリテラシーも同様で、日々触れる情報を体感することで育ちます。

 家庭のスマホルールはどのように設定すべきですか
 子どもの年齢やきょうだいの有無、親のネット知識など家庭環境の属性によって異なりますが、性格や行動といった子どもの特性をどこまで親が把握しているか、がポイントです。そもそも親が子どもの前で自由にスマホをむやみやたらに使っているのに、子どもに制限を強いても説得力はないでしょう。ネットルールに限らず、子どもが約束を守らないケースは多々あります。それこそケース・バイ・ケースですが、実現可能で守れる範囲のルールにした方がよいと思います。大切なのは、約束を破ったときの対応をしっかりと話し合って決めておくこと。親が一方的に決めたルールでは破綻しやすいです。ルールは守らせることが目的ではなく、いかに次のステップにつなげ、上手な使い方を考えられるか。子どもの言い分も聞き、親の願望を伝えて一緒に作っていくことが大切だと思います。

 2018年から、18歳未満の青少年が携帯端末を契約・機種変更をする際に、携帯電話事業者がフィルタリングを提供することが義務付けられました。実態をどう見ますか。
 フィルタリングの利用率が低いことは心配です。肝心なのは「フィルタリングしてあるから大丈夫」と思考停止にならないこと。そもそもフィルタリングは有害情報を完全にシャットアウトできるのではなく、子どもたちも容易にフィルタリングを外す方法を調べて実行します。「使い勝手が悪い」と子どもに言われて外してしまうケースもありますが、法律で決められた保護者の責務という意識が重要です。その一方、欧米ではOECD勧告に基づく国連「子どもの権利条約」を柱とし、遊びながら成長していくことを踏まえた上で、インターネット上での子どもたちの自由な表現を保護していく方針を示しています。子どもを保護することだけがネットリテラシー教育の目的ではないとする考え方も理解でき、非常に悩ましいです。

 SNSの利用を通じて青少年が巻き込まれるネットトラブルも頻発していますね。
 使いながら失敗して学ぶことが理想ですが、痛みや被害の予測がつきにくく、デジタルタトゥーとして生涯残ってしまうリスクが怖いです。いつのまにかスクショ(スクリーンショット)されて拡散されるネットの世界には、不特定多数の他者が介在し想像以上の悪意がはびこっています。多くのトラブルは無知と無意識で発生するので、「知らなかった」「考えていなかった」では済まされません。メタバース登校や生成AIなどの新たなツールも生まれ、生活必需品となっているインターネットだからこそ、「次にどうなるか」常に先を予測して使用することが肝要だと教える必要があります。不安を感じたときにはいったん使用をやめたり大人に相談したりして、自分の身は自分で守るという原則を改めて認識すべきだと考えます。  静岡県教委「アドバイザー」養成  静岡県教委は、インターネットによるトラブルから子どもたちを守るため、安全な使い方や家庭でのルール作りを保護者などにアドバイスするボランティア「スマホルールアドバイザー」を養成している。正しく安全なネット利用の「助言」と家庭で話し合ってルールを決める大切さの「啓発」を活動の軸に、22年度は119人のアドバイザーが計118回、1万478人に講習会や伝達を実施した。 photo03 静岡県教委が開いたスマホルールアドバイザー養成講座=9月下旬、静岡市駿河区
 アドバイザーの登録には、静岡県内各地区で開催されている養成講座の受講が必要。受講完了後に登録証が発行される。9月下旬に講座を受講した磐田市の中学校教諭は「子ども同士のグループLINE(ライン)でトラブルになり、本人や保護者から相談があった時など、学校側だけでは対処に苦慮するケースもある。アドバイザーが間に介在することで、抱えている悩みの解決につながるのでは」と期待を寄せる。
 登録されたアドバイザーは各市町の教育委員会などから依頼を受け、学校での入学説明会や保護者会、子育てサークルなどで講習を行う。問い合わせは県教委社会教育課地域家庭班<電054(221)3115>へ。

 フィルタリング 青少年を有害な情報から守り、安心安全にインターネットを利用できるよう手助けする機能。一定の基準を満たした安全なサイトのみアクセスが可能な「ホワイト方式」と、その逆で有害と思われる特定サイトへの閲覧制限やアプリや課金の利用を制限する「ブラックリスト方式」がある。2018年に青少年インターネット環境整備法が改正され、18歳未満の青少年がスマートフォンや携帯電話を契約・機種変更する際、携帯電話事業者は同機能を提供することが義務付けられた。

 ながさわ・ひろこ 浜松市中区で写真店を経営。自身も子育てを経験する中、他の保護者らと子育ての悩みを解決する市民活動を開始、2007年にNPO法人「浜松子どもとメディアリテラシー研究所(通称メリ研)」を立ち上げ理事長に就任した。現在は県ネット依存対策推進事業企画運営会議委員長や県公安委員も務める。

 次回も同じテーマでフィルタリングの現状について有識者の話や携帯電話各社の取り組みを紹介し、保護者と子どものよりよいネットとの付き合い方について考えていきます。
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