リニア開業で静岡に経済効果1679億円 新幹線停車1・5倍、全駅で「利便性向上」 国交省公表

 国土交通省は20日、JR東海のリニア中央新幹線が品川―大阪間で全線開業した場合、東海道新幹線の静岡県内6駅(熱海、三島、新富士、静岡、掛川、浜松)に停車する列車本数を現状の約1・5倍に増やせる可能性があり、10年間で1679億円の経済効果が生まれるとの調査結果を公表した。県や大井川流域市町にリニア開業に伴うメリットを示し、停滞する静岡工区の事業を進展させる狙いがある。

調査結果を発表する斉藤鉄夫国土交通相=20日午前、国交省
調査結果を発表する斉藤鉄夫国土交通相=20日午前、国交省

 調査では、リニアに乗客が移ることで東海道新幹線の輸送量が約3割減ると試算した。輸送力に生じた余裕を活用して増便すれば、停車本数が静岡駅で1日53本から80本(停車頻度おおむね12分に1本)、浜松駅で49本から74本(同)、三島駅では44本から66本(15分に1本)などに増えるとした。「ひかり」の県内停車についても「増加する余地がある」と見通した。
 静岡県外からの来訪者は年間約67万人、観光消費額は93・5億円増加すると試算。県内での移動も増えるため、2037~46年の累計で、経済効果のほか、1万5600人あまりの雇用効果もあるとした。停車本数が増えれば、次の新幹線までの待ち時間が短くなり、同じ時間で到達できる範囲が広がると説明。在来線との乗り継ぎもスムーズになるとの利点も挙げた。
 名古屋までの部分開業時点での効果にも触れ、県内駅の停車本数は現状の1・1~1・2倍、10年間の経済波及効果は243億~585億円になると見込んだ。県が構想する静岡空港(牧之原市)の新駅建設の可能性に関しては、リニア建設促進期成同盟会に設置された研究会で議論がされているなどとして、今回は調査対象としなかった。
 斉藤鉄夫国交相は同日の閣議後記者会見で「静岡県内の各駅や周辺地域のみならず、東海エリア全体に大きな効果が期待できる。結果を沿線関係者に説明し、リニアの意義について一層の理解を得たい」と述べた。

目前の環境課題 解決を
 東海道新幹線の停車増に関する調査結果では、リニアの全線開業によって県内全駅で利便性が向上するとされた。ただ、あくまで将来の可能性に過ぎず、実現するかどうかは事業者であるJR東海次第というのが実情だ。足元で続くリニアの環境問題の議論とは切り離して捉える必要がある。
 リニアの新駅が設置されない静岡県にとって、東海道新幹線の増便は分かりやすい「メリット」であるのは間違いない。だが、これまで国交省幹部が利便性向上をアピールすべきとJRに促しても「今の段階でダイヤは組めない」と消極的だったという。将来の経済状況が見通せない中で、経営にかかわる判断は下せないという事情がうかがえる。
 今回の調査はこうしたJRの姿勢や静岡工区の事業膠着(こうちゃく)にしびれを切らした国が、現状打破を狙って実施した側面が強いものの、国交省の担当者は「国としてダイヤをああしろ、こうしろと言うべきではない」と説明。ここから先はJRの判断になるとの考えを示す。
 そもそも県や流域市町は、メリットを得るためにリニア工事に難色を示しているわけではない。大井川の流量減少対策や南アルプスの環境保全に対する真摯(しんし)な対応を求めている。調査結果はリニアの是非を考える一つの材料にはなるが、結局は目の前の課題を地道に解決し、県や流域市町の信頼を得ることが事業推進の近道だと言える。
 (東京支社・山下奈津美)

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