時論(10月22日)将棋は指せなくても面白い

 藤井聡太棋士(21)が王座を奪取し八冠となったことを報じた12日付本紙1面には、これで4人目の全冠独占達成者の一覧が載った。升田幸三(1918~91年)、大山康晴(23~92年)、羽生善治九段(53)、そして藤井八冠。
 羽生さんと哲学者の梅原猛さん(25~2019年)が、将棋文化をテーマにした対談の中で対照的だった升田と大山について語っている。梅原さんは両者の激戦の同時代の証言者として、羽生さんは大山と対戦した経験も踏まえて(「教養としての将棋 おとなのための盤外講座」現代新書)。
 このエピソードも取り上げた。終戦直後、将棋は戦争につながるものだから禁止しようとしたGHQ(連合国軍総司令部)が升田を呼び出した。「相手の駒を取ったら自軍で使う。捕虜虐待ではないか」というGHQに、升田は、捕虜でも差別せずに戦力として生かしているとし、「チェスは、キングを守るためにはクイーンまで犠牲にするじゃないか」と反論した。
 新書の帯には「将棋は指せなくても面白い」とある。日本文化として多面的な見方を教わると、そうとも言えそうだ。もちろん、指せたほうがいいに決まっている。
 八冠となった藤井竜王はタイトル防衛をかけた同年齢の伊藤匠七段との7番勝負第2局で2連勝。将棋好きの子どもたちのリスペクトはますます高まるだろう。
 提案がある。藤井八冠のルーティン「初手の前のお茶ひと口」。大手メーカーは目ざとく、緑茶ドリンクのテレビCMにもなった。湯飲みで飲むあのしぐさがテレビに映ったら「カッコいいよね」と子どもたちにすり込んでみては。お茶好きにもなって茶の消費拡大につながるかもしれない。
 (論説副委員長・佐藤学)

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