いざ、真剣勝負!!県境に熱気と緊張感 静岡と長野「峠の国盗り綱引き」 ”異例”の3本目で遠州軍敗れる【記者ルポ】

 4年ぶりに静岡、長野県境のヒョー越峠で22日開かれた「峠の国盗り綱引き合戦」は、浜松市天竜区水窪町の選手で構成する遠州軍が惜しくも敗れ、3連勝を逃した。同町居住2年目の記者(28)も取材に加えて遠州軍の一員の心持ちで参加し、熱気に触れた。綱引きの後、抱擁したり握手したりしてたたえ合う遠州、信州両軍のメンバー=22日午後、静岡、長野県境のヒョー越峠
 決戦の約2時間前から観衆を乗せたバスが次々と会場に入り、戦いを待ち望む人でにぎわった。開会した正午にはざっと100人を超す。初めて訪れた磐田市の尾高澄夫さん(75)は「綱引きで地域を盛り上げる発想が面白い。楽しみだね」とわくわく感を口にした。辺りには次第に緊張感も漂い始めた。
 4年ぶりの決戦は、両軍の大将を務める中野祐介浜松市長と佐藤健飯田市長の舌戦でスタート。中野市長は、長野県飯田市で建設が進むリニア中央新幹線の長野県駅を取り上げ、「(長野県)駅までの道(領土)がほしい。全力で勝利し、飯田に攻め込む」と意気込んだ。佐藤市長は「ここから連勝して遠州灘を手に入れたい」と返した。
 午前中は白い息が出るほど冷え込んだヒョー越峠も、決戦が近づくと暖かくなり始めた。熱戦を繰り広げた遠州軍=22日午後、静岡、長野県境のヒョー越峠
 「いざ、勝負!!」。1本目の始めの合図とともに両軍の力強い応援が始まった。「そーれ」「そーれ」と大きなかけ声を間近で選手に送り、勝利を祈った。しかし、両軍の実力はほぼ均衡し、綱はみじんも動かなかった。制限時間の2分間が経過し、判定は「引き分け」。1本目が終了し会場に緊張感が漂う中、中野市長は「絶対いけるよ」と遠州軍にエールを送り、士気を高めた。
 2本目の遠州軍。後半で厳しい表情を見せる選手もいたが全員で粘り強く綱を引っ張り、綱を定位置から譲らなかった。1本目に続いて決着はつかず。2本連続の引き分けは過去にほぼなかったとされる「異例の事態」。会場がざわつく中で最後の3本目は急きょ、3分間で戦う特別ルールが設けられた。惜しくも敗れた遠州軍=22日午後、静岡、長野県境のヒョー越峠
 2分間での勝負を想定し練習を積み重ねてきた遠州軍にとって3分間は未知の世界だった。2分間を過ぎたところで恐れていた〝異変〟が起きた。引かれるのを耐えに耐えてきた足元の地面にできた溝が徐々に深くなる。すると、姿勢が後ろへ急に傾き始めた。「まずい」。選手の顔も険しくなる。信州軍は好機を逃さず、攻勢に転じた。一度崩れた体勢に、あらがう力は残されていなかった。
 遠州軍には悔しい敗戦となったが、両軍は最後に抱擁しあったり、握手をしたりしてたたえあった。
 遠州軍を率いる山本功さん(49)は「五分五分でいい試合ができたと思う。来年も楽しみだ」と振り返った。同軍主力の小松実さん(48)は「正直なところ悔しい。4年ぶりで緊張もあった。今度こそ勝ちたい」と来年の勝利を目指し、前を向いた。
 記者は週1、2回ペースで練習に参加し、いつでも出場できる構えで当日を迎えたものの、残念ながら出場機会はなかった。それでも、領土を奪われた悔しさや県境をまたいだ真剣勝負の楽しさを共有することができた。来年こそは遠州軍が雪辱を果たす瞬間に立ち会い、勝利の喜びを分かち合いたい。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞