アジア大会開会式 影響色濃く 習氏“凱旋”で観衆は熱狂【浙江点描 省都杭州の今㊤】

 静岡県との友好都市提携40年が経過した中国・浙江省。同省の省都杭州市で9~10月に開かれたアジア競技大会を取材するため、現地に3週間滞在した。競技取材の合間に足を運んだ街の様子を紹介する。

国慶節に合わせた大型連休中、市民が憩う広場。右奥の展示施設では「“八八戦略”実施20周年」と銘打った記念展が開かれていた=10月上旬、杭州市
国慶節に合わせた大型連休中、市民が憩う広場。右奥の展示施設では「“八八戦略”実施20周年」と銘打った記念展が開かれていた=10月上旬、杭州市
競技場周辺の歩道の至る所に、中国政府の理念が掲げられていた=9月下旬、杭州市
競技場周辺の歩道の至る所に、中国政府の理念が掲げられていた=9月下旬、杭州市
浙江省
浙江省
国慶節に合わせた大型連休中、市民が憩う広場。右奥の展示施設では「“八八戦略”実施20周年」と銘打った記念展が開かれていた=10月上旬、杭州市
競技場周辺の歩道の至る所に、中国政府の理念が掲げられていた=9月下旬、杭州市
浙江省

 「富強」「民主」「自由」「平等」「法治」「愛国」-。杭州市の競技場周辺を巡ると、歩道の至る所に掲げられた中国政府の理念が目に飛び込んでくる。街を走る路線バスには、経済格差の解消を図る「共同富裕」の標語が誇示するように記されていた。
 杭州の街には20階建て以上の高層ビルやマンションが立ち並び、そこかしこで新たな建設が進む。建国記念日に当たる国慶節(10月1日)に合わせた大型連休中、市民でにぎわう市街の広場を訪れた。すぐそばの展示施設では「“八八戦略”実施20周年」と銘打った記念展が開かれていた。
 静岡県と友好都市関係にある浙江省でトップの中国共産党委員会書記を2002~07年に務めた習近平国家主席。八八戦略は、習氏が03年に発展に向けて打ち出した綱領だ。市内に住む中国人男性は、都市と農村のバランスの良い発展を生み出した八八戦略は市民に評価されていると説明し、「彼(習氏)は浙江省での成功を国にも当てはめたいと考えているはず」と付け加えた。
 アジア大会開会式の冒頭、習氏がスタジアムの観覧席に登場し、大型スクリーンに映し出される場面があった。観衆は“凱旋(がいせん)”を祝うかのごとく、地鳴りのような拍手と歓声で迎えた。習氏を評価する声があの男性だけではないことを肌で感じつつ、あまりの熱狂ぶりに違和感を覚えた。
 当初22年に開催される予定だったアジア大会は、中国の厳格な行動制限を伴う「ゼロコロナ政策」によって1年延期を余儀なくされた。だが、国民の反発を受けて政府は昨年12月以降にゼロコロナ政策の転換を進めた。「コロナの影響もあるから彼のせいかどうかは分からないが、経済成長には陰りがある。もちろん賛否両方ある」。街の広場で周りを気にして声を潜めた中国人を見て、不満を漏らすことに対し見えない圧力がかかっているように思えた。
 現地で新型コロナを思い起こさせるのは、今やトイレに置かれた手指消毒液ぐらい。マスクを着けた市民は見かけない。国内外に混乱をもたらしたウイルスの記憶は、既に遠くかなたにあるようだった。
 (政治部・大沼雄大)

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