推し活で手芸身近に 縫いぐるみなど関連品、初心者や若者に発信

 「推し活」を手芸のきっかけに-。生活スタイルの変化やファストファッションの普及などで手芸人口の減少が懸念される中、「推し」の姿を模した縫いぐるみ「推しぬい」作りなどでその魅力に触れてもらおうと、県内の手芸店が情報発信に力を入れている。手縫いで完成する動画を作ったり、貼るだけの商品を充実させたりして初心者や若年層への広がりに期待する。

鳥巣彩子さんが手作りする「推しぬい」用の服=9月下旬、静岡市駿河区
鳥巣彩子さんが手作りする「推しぬい」用の服=9月下旬、静岡市駿河区

 9月、静岡市駿河区の生地のセレクトショップ「ララドレス心踊る手しごと店」が閉店した。デザイナーである鳥巣彩子さん(52)が2018年に開店。他にない生地のラインアップは愛好家を魅了したが、「働く女性が増え裁縫に時間をかける人が少なく、ミシンを持たない家庭が増えている。在庫を抱えながらの店舗はこの先厳しい」と苦渋の決断に至った。
 一方、高校生の娘の要望で作ったことを機に、約1年前からネット販売する「推しぬい」用の服の売れ行きは好調で、海外から注文があるほど。「自分でも作ってみてほしい」と、100円均一店で手に入る材料を使って手縫いで完成する服の制作動画も公開している。再生回数などから大きな需要を感じ、今後は「推しぬい」関連品の製造・販売に注力する。鳥巣さんは「若い人が針を持つきっかけになれば」と期待する。
 県内に店舗を持つ大手手芸用品店も「推し活」を新たな客層を取り込む好機と捉えている。
 ユザワヤ商事(東京都)は昨年、「推しぬい」用パーツの販売を始めた。広報担当者は「店を利用したことのない人や手作りの経験がないという10、20代の来店が増えている」と実感を込め、SNS(交流サイト)で積極的に発信する。貼るだけで市販品のような表情が完成する目や鼻のワッペンを紹介した投稿は反響が大きかったという。
 「クラフトハートトーカイ」を全国展開する藤久(名古屋市)も、一部店舗のみで扱っていた関連商品を今年全店に拡大した。既存商品にも関心を向けてもらおうと、各店の好事例を共有する。担当者は「『推し活』は、『ぬい』以外にも色などあらゆる概念で楽しむ人がいる。年齢や性別を問わず喜んでもらえる店づくりに役立てたい」と意気込む。
 (教育文化部・鈴木明芽)

 推し活 お気に入りの俳優やアイドル、キャラクターを「推し」と呼び、それを応援する活動。消費者庁の「消費者意識基本調査」(2021年度)によると、「推し活」にお金をかける人は、10代後半で4割、20代で3割に上り、他の年齢層と比較して高くなっている。

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