世界かんがい遺産に登録 北山用水(富士宮)と本宿用水(長泉) 家康ゆかりの開削、歴史的価値

 富士宮市の北山用水と長泉町の本宿用水が6日までに、「世界かんがい施設遺産」に選ばれた。建設から100年以上が経過し、歴史的価値の高い利水施設を登録する国際かんがい排水委員会(ICID)の制度で、現地時間4日にインドで開かれた理事会で決まった。静岡県内の登録施設は6件になった。

世界かんがい施設遺産に登録された北山用水=5日、富士宮市北山
世界かんがい施設遺産に登録された北山用水=5日、富士宮市北山
世界かんがい施設遺産に登録された本宿用水=5日、長泉町下土狩
世界かんがい施設遺産に登録された本宿用水=5日、長泉町下土狩
世界かんがい施設遺産に登録された北山用水=5日、富士宮市北山
世界かんがい施設遺産に登録された本宿用水=5日、長泉町下土狩

 北山用水は徳川家康が甲斐の武田家を攻め入った1582年、家康が勝利の礼にと、進軍時に泊まった北山本門寺の願いを聞き入れて開削を家臣の井出正次に命じたとされる。わずか3カ月半で通水に至る迅速な工事だったとの言い伝えがある。芝川を水源に南東へ流れる全長約8キロの水路で、枯れ沢や浸食谷の幅と深さを考慮して掛け樋(とい)と埋め樋を使い分けた工法は、当時の利水工事において革新的だった。
 北山地区は周囲より標高が高く、水不足に悩まされてきた。北山用水によって稲作の水源が確保でき、水車の動力を生かして暮らしが著しく発展した歴史がある。現在も地域の農業を支える貴重な水となっている。地元住民でつくる北山用水運営協力委員会を中心に保全に取り組む。
 本宿用水は、黄瀬川の「鮎壺の滝」上流部にある新井堰(せき)から取水し、延長500メートルの隧道(ずいどう)、約2キロの水路で構成する。降水時に暴れ川となる黄瀬川は稲作に向かないため、徳川家康から任命を受けた領主・興国寺城主の天野三郎兵衛康景が、1603年に完成させた。隧道通水の水利技術や鉄のノミを使った人力による掘削、あんどんを使う測量など高度な技術を結集し、67年後につくられた深良用水(裾野市)建設の手本にもなった。
 本宿用水の完成により、水持ちが悪く、作物の増産が見込めなかった土地が水田地帯となり、同地区の農村発展と貧困解消につながった。現在も本宿共有財産管理委員会や本宿部農会など有志を中心に維持管理している。
 同遺産登録は、かんがい施設の持続的な活用と保全を考える契機とし、維持管理に対する意識向上につながることが期待される。

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