事業承継 鍵は支援者増 地域企業や店に関心を【記者コラム 黒潮】

 地域で長年愛されてきた店舗や中小企業の事業承継相談の窓口役を担う「県事業承継・引継ぎ支援センター」。昨年から9月を「事業承継推進月間」と定め、重要性をPRする施策に取り組んだ。実施2年目の今年は「承継を円滑に進める鍵は支援者を増やすこと」をテーマに掲げ、事例を紹介するセミナーに加え積極的な広報を行った。ステークホルダー(利害関係者)である金融機関や保険会社、士業など多業種を巻き込んだ試みは、着実に支援者の意識を高めている。
 推進月間の導入は沖縄県に続き全国2例目。2020年に後継者不在率が全国ワーストの81・2%を記録した沖縄県は、地元金融機関のトップ対談やセミナー、お笑い芸人のステージで幅広い層へ事業承継の重要さを伝える取り組みを展開した結果、2年後にはワーストを脱することに成功した。
 静岡は沖縄の事例を参考に独自施策を展開。後継者不足に悩む飲食店を紹介するラジオ番組の企画では、出演店舗を金融機関が仲介するため、事業承継への感度が確実に高まった。放送後には「あの味を受け継ぎたい」と後継者に名乗りが挙がる好例も。承継計画策定の要点を各回10分間の動画にまとめ、6回分配信することにも挑戦し、忙しい経営者らが“隙間時間”に知識を得られる工夫をするなど多方面へPRを試みた。
 ただ、いずれの施策もまだ道半ばで結果が出るには時間がかかる。事業承継はほぼ全ての法人が避けては通れない経営課題。地元に息づく店や企業が次代につなぐ伝統や資産、人脈は、地域を潤す活力として確かな存在感を放つ。旗振り役の同センターや支援者が重要性を説くだけではなく、地域住民が消費者として支援者である自覚を持つことも必要だろう。まずは地域にある会社が何をどんな思いでやっているか、関心を持つことから始めて見てはどうか。
 静岡市内では17日から19日まで、もの作り企業の工場や現場を一斉に見学できるイベント「ファクハク~静岡工場博覧会」が開催される。普段は見ることができない職人のこだわりや思いに触れることで、未来に残したい地域企業が見えてくるかもしれない。
 (社会部・薬袋貴信)

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