静岡県内浸水想定区域の図書館 予算、人員…蔵書の防災に厚い壁 デジタル化や本の避難訓練必要

 全96施設の半数以上に洪水時の浸水リスクがある一方、対策は進んでいない現状が静岡新聞社アンケートで分かった静岡県内の公立図書館。各館は予算や人員不足を対策の遅れの主な要因に挙げるが、3割強でハザードマップの館内掲示ができていないなど危機意識の低さもにじむ。大雨による浸水で地下書庫にあった約2万冊の廃棄を余儀なくされた静岡市立南部図書館は「(備えていれば)被害は軽減できた」と悔やみ、対策の重要性を訴える。工夫を凝らしながら取り組みを進める施設もある。
館内に掲示しているハザードマップ=9月下旬、吉田町立図書館
 「本は市民の貴重な財産という意識はあるが、予算の壁が苦しい」。0・5~3メートルの浸水が予測されている県西部の市立図書館の担当者は嘆く。同規模の浸水が想定されている県中部の図書館の担当者も「限られた予算の中で災害対策までやりくりしなければならない」と実情を説明する。ただ、土のうの常備やハザードマップの掲示など比較的単純な対策にも着手できていないという。
 静岡市立南部図書館は夜中に被災し、約60センチ浸水した。佐藤由乃館長は「止水板は備蓄していたが、閉館前にどのくらいの雨量で設置すべきか判断がつかなかった」と振り返る。止水板は高さ約60センチで、設置していれば被害を抑えられた可能性があった。書庫の復旧には約3500万円かかった。
 湯日川沿いに立地し、0・5~3メートルの浸水が想定されている吉田町立図書館は館内の目立つ場所にハザードマップを掲示したり、普段の業務から一人一人に指示役を経験させたりして職員の防災意識や主体性の向上を図っている。松永満館長(55)は「今までの認識では通じないほど災害規模は変化している」と危機感をあらわにする。
 3~5メートルの浸水が想定されている沼津市立図書館は2021年、電子図書館を開館。地域資料285点をデジタル化し、公開している。予算2435万円は国からの交付金を活用した。尾和富美代館長は「元々は新型コロナ対策だが、浸水時に貴重なデータを守ることにも通じた」と語る。
 アンケートでは、夜間や休館日などに浸水リスクが高まった場合の対策について、45館が「職員参集マニュアルがある」と回答した一方、対策が「できていない」「あまりできていない」が14館あることも判明。宮城県名取市図書館の加藤孔敬館長(53)=日本図書館協会図書館災害対策委員=は「災害時すべての蔵書を守るのは難しい。資料のデジタル化や複本の分散配置、本の避難訓練を行うなどできる限りの備えをする必要がある」と指摘する。
 (社会部・鈴木志穂)

18年西日本豪雨 岡山・倉敷の真備図書館1階水没 12万7000冊失う 貴重な郷土資料も被災
被災直後の館内の様子=2018年7月、岡山県倉敷市立真備図書館(同市提供)
 図書館の浸水被害としては、2018年7月の西日本豪雨で被災した岡山県倉敷市立真備図書館の事例が知られる。約3・5メートル浸水し、2階建ての建物の1階が水没した。収蔵するほぼすべての約12万7千冊を廃棄する甚大な被害だった。
 同市によると、閉館後の夜間に浸水した。マニュアルでは災害が予想される場合、職員は館内に残って対応することになっていたが、大きな被害になると想定しておらず職員は全員帰宅していた。職員の参集をかけようにも、河川の氾濫で駆け付けられる状況ではなかった。地元の貴重な郷土資料も被災した。真備地区の浸水範囲はハザードマップで想定されていた通りだったという。
 21年に再建し、被災前1階にあったパソコンサーバーは2階に移した。館内に防災の特集コーナーを常設したほか、警報が発令された場合、その後のイベントは取りやめるなど早めの行動を意識している。一方、被災前と同じ場所に建て直すなどハード面で強化した対策はあまりないという。河川堤防のかさ上げ工事が完了して氾濫の可能性が大幅に減ったことや、早急な復旧を目指したことなどが理由とする。利用者の利便性も考慮し、図書は1階に置いている。
 真備図書館を統括する同市立中央図書館の梶田貴代館長(58)は「災害リスクは図書館ごとに異なり、それぞれでリスクを知ることが大事。図書館単体でできるハード対策は限られるので、ハザードマップやマニュアルの共有、避難訓練の実施、防災の啓発などソフト対策を重ねていくことが重要だと考える」と話す。

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