議論の情報発信不十分 南海トラフ地震のWG会合非公開【とうきょうウオッチ 記者余論】

 来春の南海トラフ巨大地震の防災対策改定に向けた国のワーキンググループ(WG、主査・福和伸夫名古屋大名誉教授)は16日、最終段階となる報告書の取りまとめ作業を始めた。4月から計12回の会合を重ねているが、冒頭以外は全て非公開。終了後に議事要旨の公開と記者向けの概要説明はあるものの、“密室”での議論が続いている。

南海トラフ巨大地震の防災対策を議論した会合。冒頭以外は非公開にしている=16日、内閣府
南海トラフ巨大地震の防災対策を議論した会合。冒頭以外は非公開にしている=16日、内閣府

 ある回は揺れ対策がテーマ。終了後の取材に、福和主査は現状で「建物の全壊棟数割合が大きい自治体は沿岸部に多い」「5割超の建物が全壊という県があった」と説明し、自身も「びっくりする」と感想を漏らした。居住地の災害リスクは住民の避難意識の向上につながる情報だが、地域名は明かされなかった。
 防災の推進には住民の協力が不可欠だ。福和主査も個人の防災行動の重要性をしきりに強調するが、情報発信なくして「自分事と捉えて」と訴えるのは、矛盾があると思う。
 内閣府は非公開の理由の一つを「委員が率直な意見交換をできるから」としている。公開の場だと、専門家は率直な意見を言えないのだろうか。今後の会合は新たな被害想定が議題になる。静岡県などの関係自治体はこれまでリモートで傍聴してきたが、被害想定の議論は「未確定の数字で混乱を与えないため」(内閣府担当者)に傍聴を中止し、事務局と委員のみで行うという。
 現場で災害に向き合うのは自治体と住民だ。情報が不安をあおることばかり懸念しているが、情報は安心や注意喚起の材料にもなる。当事者を置き去りにすべきではない。
 (東京支社・山下奈津美)

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