静岡県内タクシー、昼の態勢強化 運転手不足でシフト変化 夜の街は利用しづらい状況に

 静岡県内でタクシー運転手が不足している。新型コロナウイルス禍で離職者が大量発生した一方、社会経済活動が再開して輸送需要が急回復した。全国的にも同様の傾向が続く。県内各社は積極的な採用活動で人材確保を急ぎ、足元では繁忙時間帯である日中の勤務態勢を手厚くして対応している。このため、夜間の繁華街でタクシーをつかまえにくい状況が生じ、街の光景に変化が見られる。

運転手不足の影響から、客待ちのタクシーが減った夜の繁華街=11月下旬、静岡市内
運転手不足の影響から、客待ちのタクシーが減った夜の繁華街=11月下旬、静岡市内


 「車はあっても人がいない」。県タクシー協会の村上雅則専務理事(64)は現状を端的に説明する。
 県内のタクシー運転手は2020年3月の6082人から今年3月末時点の4960人へと約2割減少した。コロナ禍の移動制限で利用が激減し、運転手の収入を直撃。もともと高齢を理由に増えていた離職の流れに拍車がかかった。車両の稼働率はコロナ前の65%から50%に落ち込み、今も53%と低迷が続く。
 約90人の運転手が70人弱に減った静岡ひかりタクシー(静岡市葵区)は限られた陣容で収益を確保するため、昼も夜もカバーしていた人員配置を朝や昼中心にシフトした。日中は通院や買い物で予約利用する高齢者が多い上に、ビジネス利用も回復傾向。泉真社長(46)は「多くの需要に応えることは経営的な安心感にもつながる」と明かす。
 コロナ前は運転手が700人以上在籍した県内大手の遠鉄タクシー(浜松市中区)も同様の態勢にかじを切った。並行して採用を活発化させ、500人台になった運転手の数をコロナ前水準に戻すことを目標とする。
 榊原正之常務取締役運行営業部長(49)は「長い拘束時間や低収入などマイナス要素は過去の話。今はむしろ稼げる市場であり、自由度の高い働き方もアピールしたい」と話す。
 大手や中堅の企業が日中の配車を強化したことで、夜の繁華街に影響が及んだ。静岡市中心街は客待ちの車両が沿道に並ぶ光景があまり見られなくなった。夜のタクシー利用が多いという40代の男性会社員は「最近は飲み屋にいる段階でタクシーを呼ぶ。それでもつながりにくいが」とぽつり。同僚の男性は「バスのあるうちに帰るしかない」と苦笑する。
 12月は忘年会シーズン。従来なら書き入れ時だが、泉社長は「(平日利用の)なじみの高齢者を差し置いて再び勤務態勢をいじることは考えていない。各社とも似た選択ではないか。個人タクシーも固定客を抱えているだろう」とし、夜の街でタクシーを利用しづらい状況は続くと見通した。
 (経済部・河村英之)

コロナ前水準に売り上げは回復
 県タクシー協会によると、新型コロナ禍で打撃を受けた運転手1人当たりの平均売り上げはコロナ前の水準にほぼ回復した。
 2019年度に554万円だったのが、22年度は529万円。感染が拡大した20年度は363万円、21年度は427万円だった。
 県内は9月に全域でタクシー運賃が値上げされた。値上げ分は今後賃金に反映され、運転手には好材料という。
 県内の法人タクシーは102社。平均年齢は約63歳。

ライドシェア 県協会は「反対」
 タクシーの運転手不足を受け、政府が導入を検討しているのが、一般ドライバーが自家用車を使って有償で客を運ぶ「ライドシェア」。海外での運用実績を背景に急速に議論が進むが、安全性を不安視する声は根強く、県タクシー協会は「反対」の姿勢を訴える。
 ライドシェアは国内では「白タク行為」に当たり、法律で原則禁止されている。安全面や運行管理、実効性を疑問視する向きがある一方、海外でサービスが浸透した国は少なくない。
 同協会の村上雅則専務理事は国内での議論は具体的な制度設計が明らかになっておらず、「全体像が見えない」と強調する。
 別の関係者はタクシーの車検が1年、自家用車は原則2年である点などを指摘し、「規制に縛られた業界と自家用車を同じ土俵で語れるのか」といぶかる。その上で「まずは運転手不足を解消し、あとは利便性向上の観点で判断すればいいのでは」と話した。

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