清水立体で橋桁落下 工事の安全望む声切実【追跡2023②】


 「工事再開を怖がっている近隣住民もいる。どうしたらよいのか」―。12月16日夜、今夏起きた国道1号静清バイパス「清水立体工事」の橋桁落下事故現場にほど近い静岡市清水区の尾羽自治会館。事故区間の工事再開時期などを伝えるため訪れた国土交通省静岡国道事務所や工事関係者ら約20人を前に、自治会幹部の男性(70)は問いただした。
橋桁が落下した直後の8人死傷事故現場。民家が近接していた=7月6日午前、静岡市清水区尾羽(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
 巨大な橋桁が地面に落下したため、発生時に「地震か」と思った近隣住民は多くいた。男性によるとトラウマ(心的外傷)を抱えている人もいるという。事故のあった区間を含む高架橋工事は来年1月末から始まる。深夜工事のある期間中は、自宅以外の宿泊施設などの準備を願い出ようとしたが、期待した回答は引き出せなかった。
 事故を起こしたのと同じ県外2社による共同企業体(JV)が、全く同じ工法を用いて工事を再開する。「(再発防止のための)対策は」との住民側の質問に対して、回答は「管理を強化する」。不安を抱く人も少なくなかった。
 一方で、事前の予告にも関わらず、説明会の会場に集まった住民は自治会役員を中心に15人ほどと、説明者側の7割程度。同じ幹部の男性は「事故のあったお膝元でも“風化”は進んでいる」とも感じている。
 工事発注者の静岡国道事務所は8人が死傷した事故の教訓を忘れないため、今月上旬、橋桁落下事故のあった7月6日を「しずこく安全の日」に制定した。同事務所の担当者は「事故を後世に伝えるとともに、職員一人一人が安全意識を高めることが目的」と説明する。毎月6日には安全に関する取り組みを事務所内で共有していくという。
 橋桁落下事故の起きた清水立体工事の2・4キロは、国道1号静清バイパス(24・2キロ)の中で唯一平面で残る区間。周辺は朝夕の通勤時間帯などは慢性的な渋滞が発生していて、近隣住民からも早期完成を願う声もある。落下現場から50メートルほどの自宅に住む花卉(かき)農家の女性(74)は「夕方家を出て買い物に行くのは避けてしまう。早く開通してほしい」と話す。近くに住む別の農業の男性(71)も「安全を最優先に工事を再開してほしい」などと訴えた。
 (清水支局・坂本昌信)

 <メモ>静岡市清水区尾羽の国道1号静清バイパス「清水立体工事」下りで7月6日未明、工事中の橋桁(重さ約140トン)が落下。作業員ら8人が死傷。県警は業務上過失致死傷容疑で捜査を続ける。国土交通省は2026年春の清水立体上り開通延期を発表した。

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