【D自在】竜は架空の動物なのに

​ 黒雲を巻き上げながら富士山を越え天高く昇っていく竜。「富士越龍(ふじこしのりゅう)」は江戸時代後期、葛飾北斎の最晩年の肉筆画で絶筆に近いとされる。90歳と長寿だった北斎が自分自身を映したという評もある。

葛飾北斎 「富士越龍」(北斎館蔵)
葛飾北斎 「富士越龍」(北斎館蔵)
葛飾北斎 「富士越龍」(北斎館蔵)
葛飾北斎 「富士越龍」(北斎館蔵)
静岡浅間神社の大絵馬
静岡浅間神社の大絵馬
島田市大代のジャンボ干支。今年は例年より大きく、軽トラック5台分のわらを使った
島田市大代のジャンボ干支。今年は例年より大きく、軽トラック5台分のわらを使った
うーちゃんの前に現れた竜
うーちゃんの前に現れた竜
うーちゃんを送り届けた竜
うーちゃんを送り届けた竜
葛飾北斎 「富士越龍」(北斎館蔵)
葛飾北斎 「富士越龍」(北斎館蔵)
静岡浅間神社の大絵馬
島田市大代のジャンボ干支。今年は例年より大きく、軽トラック5台分のわらを使った
うーちゃんの前に現れた竜
うーちゃんを送り届けた竜

 2024年の干支(えと)は辰(たつ)。霊峰に昇り竜という絵柄に、所蔵する「北斎館」(長野県小布施町)には昨年末、多くの問い合わせがあったという。
 神社の大絵馬に、島田市大代のジャンボ干支に、竜のイメージは共有されている。怪獣映画のゴジラシリーズに登場するキングギドラも、3本の長い首から上は竜にしか見えない。胴体や翼は西洋のドラゴンを想起させる。竜は聖なるもの、ドラゴンは邪悪なるものと、東西で対照的である。
 うろこのある蛇体に頭部はラクダ、角は鹿、眼は鬼、耳は牛、手のひらは虎、爪はタカ…。竜は架空の生き物だが、既に紀元前5世紀ごろの中国には、今見ても「竜だ」と分かる形態ができていたという。竜は総じて荒々しい形相で造形される。雨や雲を支配し、中国皇帝の象徴とされた。神性と畏怖(いふ)ゆえだろう。
 筆者は、穏やかな竜も知っている。松崎町を舞台にした絵本「うーちゃんのまつざき」で、遊びに夢中になってお母さんとはぐれたことに気づかない男の子「うーちゃん」の前に現れた。
 「わしがおくっていってあげるよ」。モデルは浄感寺(同町松崎)の本堂の天井いっぱいに描かれた左官の名工、入江長八の「雲竜」(静岡県有形文化財)と思われる。見開いた眼に迫力がある。男児を両親のもとに送り届けた竜が半透明に描かれたのは、見えなくても必ずいるというメッセージと受け止められる。
 絵本の作者は2019年の京都アニメーション放火殺人事件で亡くなった菊川市出身の大村勇貴さん。長八が江戸で絵の修行を始めたのと同じころの23歳だった。
 (論説副委員長・佐藤学)

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