記者コラム「清流」 記憶、記録

 取材した高校の美術展で民家の庭を描いた1枚の絵が目に留まった。昔ながらの家には扇風機。夏の日が降り注ぐ庭では、植えられた木々が涼しい陰を作る。
 作品のそばには作者の言葉が添えられていた。祖父宅を訪ねた際によみがえった幼き日の思い出が、制作の起点だったという。最後の数行には作品に込めた思いがつづられていた。もし、この先この場所がなくなっても思い出せるように―。その言葉の前から、しばらく離れられなかった。
 過疎化や高齢化、社会情勢の変化などで消えゆく文化や移ろいゆく町並み。変化の是非は簡単に答えが出せない中、どう取材に臨むのか。そんな迷いが高校生の言葉でクリアになる。そこにあった景色を、人の思いをできる限り鮮明に残そう。それが自分にできることだろう。そう思った。
(清水支局・大村花​)  

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