川根本町 若者に狩猟の極意伝授 豊かな里山、農産物被害防ぐ【わたしの街から】

 町域の約90%を森林が占める川根本町は、大井川を中心に豊かな里山が広がり自然を身近に楽しめる一方、野生鳥獣による農作物被害が深刻化している。苦しむ農家を救おうと、同町では若い猟師の育成やジビエの消費拡大を通じて被害の食い止めを図る動きが加速している。同町の猟師殿岡邦吉さん(74)は20~30代の男女5人を弟子に取り、約50年間培った技術と知識を次代につなげている。その取り組みを追った。直径12センチ以下のくくりわなをしかける殿岡邦吉さん(左)と渡辺美優さん=川根本町
 1月上旬、殿岡さんは弟子の渡辺実優さん(24)を連れ、川根本町内の里山に入った。「ここは昨日シカが通った。こっちは3日前に通ってる。メインで使っている道はここだね」。殿岡さんは山に残るシカの足跡から瞬時に情報を読み取り、渡辺さんに猟の極意を伝えていく。
 「長く猟師をしていると山を見て動物がどう行動しているか目に浮かぶようになる」と殿岡さんは話す。使用するのは直径12センチ以下のくくりわな。小さなわなをピンポイントで踏ませるため、毎日山に入りシカの習性や山の状況を見極める。
 同町には約60人の猟師がいるが、そのうち約75%を60歳以上が占める。「若い人の中には、狩猟免許を取っても師匠を見つけられず経験を積めない人も多い」と殿岡さんは嘆く。一方でシカやイノシシの捕獲依頼は多く、人手が足りていないという。くくりわなをしかけた場所。わなが埋まっていることは分かりづらくなっている
 猟師の高齢化が進む中、増え続ける獣害被害に危機感を募らせ昨年、弟子の若者らと里山保全や後継者育成を目指す団体「TONONKA(トノンカ)」を立ち上げた。初心者向けの狩猟ツアーなども開催し、門戸を広げる活動を進める。
 同団体は昨年、猟師向けのLINE(ライン)オープンチャットを開設し、師匠を見つけたり猟の情報共有をしたりする場を提供している。同町で地域おこし協力隊員として活動し、猟師の技術を学ぶ渡辺さんは「猟師が働きやすい環境をつくり、なりたいと思う人を増やしたい」と意気込む。
 殿岡さんは「若者のエネルギーに支えられて頑張れる。少しでも興味がある人はウエルカムです」と笑顔を見せた。  「ジビエおいしさ知って」 カフェうえまる シカ肉のカレー  川根本町の大井川鉄道千頭駅前の「カフェうえまる」は、シカ肉を使った「大井川ダムカレー」を提供している。約5年前、地元猟師から「シカを駆除しても消費する場所がない」との相談を受け誕生したカレーは、同町にジビエという新たな魅力を根付かせた。白いご飯をダム、シカの骨からだしを取ったバターマサラカレーをダム湖に見立てた「大井川ダムカレー」=川根本町の「カフェうえまる」
 白いご飯をダムの堤体、シカの骨からだしを取ったバターマサラカレーをダム湖に見立てた。ご飯の上にはシカ肉の竜田揚げと、大井川ダムのローリング式ゲートをイメージしたちくわが並ぶ。
 親戚に猟師がいて、小さいころからジビエに親しんできた同店の山本敦子店長は「おいしさを多くの人に知ってもらいたい」と意気込む。低脂肪高タンパクで鉄分を多く含むなど栄養価の高さも魅力の一つ。管理栄養士の資格を持つ山本さんはシカ肉を「山のサプリメント」と例えた。
 同店は料理に使う野菜や果物も同町内で栽培しているが、「シカが民家のすぐ近くまで群れで来て、全て食べ尽くしてしまう」(山本店長)という。同店の上田まり子オーナーは「農家、猟師、ジビエを扱う飲食店の三役がそろうことが大切。みんなが笑顔になれるよう続けていきたい」と話した。カフェうえまる
(島田支局・白鳥壱暉)

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