山梨・日軽金雨畑ダム あふれる土砂1000万㎥、行き場ないまま 山への搬出計画も頓挫

 富士川水系にある日本軽金属雨畑ダム(山梨県早川町)が依然として土砂であふれ、周辺住民が先の見えない不安を抱えている。同社は2024年度までの5カ年計画で処分地確保を行う考えだが、いまだ適地は見つからないままだ。ダムの総貯水容量の7割以上に当たる土砂約1千万立方メートルを、貴重な植生のある町内の山に運んで畑を造成する案も浮上したが住民運動により頓挫。雨畑ダムの土砂は行き場のないまま計画最終年度を迎えそうだ。
大量の堆砂土砂の処分地確保の見通しが立たないまま立ち往生している日本軽金属雨畑ダム=1月下旬、山梨県早川町雨畑
 今月中旬に中止となったのは、町北部の通称・シッコ山の中腹(標高約900メートル)に土地改良事業として約20年かけて標高差約160メートルの土砂の盛り土をし、山ブドウ畑を作る計画。町指定天然記念物のフクジュソウ群生地や集落の水源地への懸念に加え、昨秋に一部住民が発足させた「早川の自然環境を守る会」が専門家らと現地視察会を行うなど土砂災害の懸念が伝えられた。50人近い地権者のほぼ半数が同意を撤回、首を縦に振らなかった。
山梨・早川町シッコ山の中腹に咲くフクジュソウ。1月下旬ごろから静岡県のハイキング客も訪れるという(住民提供)
 土砂の搬出先に悩む日軽金が事業費を負担し、当初は町も「まちおこしにつながる」と期待。しかし、辻一幸町長が会長を務める土地改良区設立準備会は1月14日に住民説明会を開き、正式に中止を表明した。
 シッコ山のある早川区長だった数年前、辻町長から計画を明かされたシイタケ農家の早川正治さん(70)は「当初から辻町長は乗り気だった」と振り返る。地権者の早川さんは、21年7月の熱海土石流の崩壊土砂量の約180倍、およそ東京ドーム8杯分の土砂搬入に当初から直感的に危機感を覚えたという。区内に8軒12人しかおらず、山ブドウ栽培の担い手はそもそも“不在”で恩恵もない。
 同水系に濁りをもたらすとしてアユや駿河湾産サクラエビの不漁を契機にクローズアップされた雨畑ダムの堆砂問題は混迷の様相を呈す。準備会の事務局幹部は「(シッコ山の農地整備は)中止であって、廃止ではない」とし、今後も計画実現を探る方向。日軽金広報は取材に対し、「認可された事業内容と土砂搬出計画をすり合わせ、費用を負担する」などとした。
雨畑ダムのある町長「来てもらった企業。やるしかない」 辻一幸 早川町長辻一幸早川町長(83)とのやりとりは以下の通り。
 ―なぜシッコ山の畑造成を進めるのか。
 「過疎で人がいなくなるなか、農業が大事。早川町は見ての通り9割以上が山だ。優良農地を作るのも私の責任。一石二鳥にも三鳥にもなる事業だ」

 ―ダム撤去を求める声もあるが。
 「砂防ダムとして守ってもらっている。ダムをつぶすわけにはいかない。なくなったら下流が大きな災害を覚悟しないと。そういう役割が国の認可にも入っているはずだ」

 ―日軽金に対して言いたいことは。
 「土砂の搬出先は努力して探してもらう。町だけじゃ受け入れられないかもしれない。長い期間がかかる話で今日明日で終わりではない。日軽金は呼んで来てもらった企業。いろいろあったけどやるしかない」


 <メモ> 雨畑ダム(総貯水容量1365万立方メートル)は、2020年11月時点で堆砂量1631万4千立方メートル、堆砂率は120%近くに達した。国の行政指導を受け、日軽金は24年度までに最大700万立方メートルの土砂を撤去する計画だが、ダンプカーが通る河川内の土砂運搬用道路を造成するため堆砂を移動させた分も「撤去分」に含むなど、処分地の確保は進んでいない。上流から毎年平均50万立方メートルの土砂流入があり、ダム湖周辺の住民は水害を危惧する。雨畑ダムのある山梨県早川町の辻一幸町長は、全国の現職首長で最長の11期を務め、昨年12月に今期限りでの引退を表明した。
(清水支局・坂本昌信)

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