個別最適な学びへ 宿題や家庭学習どう取り組ませる?② 「放課後の学び」のあり方【賛否万論】

 前回は、子どもたちが主体的に学びを深めるために独自の施策を行っている県内2校を紹介しました。両校の取り組みから、子どもが自分の意思で学習計画を立てることに、個別最適な学びへのヒントが潜んでいることがうかがえました。今回は、教育を学んでいる現役大学生が学校現場の実践活動を通じて感じたことや、静岡市教委が始めた「小中一貫教育」の事例から“放課後の学び”を考えていきます。
 (社会部・薬袋貴信)
「時間管理能力つく」 「学力と比例しない」
教育実践学の現場から 静大生「宿題」を議論
「宿題」をテーマに議論する学生=1月下旬、静岡市駿河区の静岡大  静岡大教育学部の教育実践学専修(稲葉英彦准教授)では、学生が静岡市内の小学校に赴き、授業や学習を支援する活動を継続的に行っています。学生は子どもたちとの交流や先輩教諭の授業の進め方などを通して、教育活動について学びを深めます。活動後には、学生同士でその日の内容を振り返るミーティングを開き、気付いた点を共有することでそれぞれの教育観形成に役立てています。1月下旬、同学部1、2年生16人が参加したミーティングのテーマは「宿題」。様子を取材しました。
 学生が日本の教育と比較したのは北欧の教育先進国フィンランド。同国ではかつて、学校から課される宿題や家庭での学習時間が日本より少ない傾向にありながら、世界トップクラスの学力を誇っていました。同国では、「アクティブ・ラーニング(子ども主体の能動的学習)」の考え方を重視しています。学校で教師は基礎的な部分を教え、子どもたちが自らの探究心で学びを深掘りしていくことで、主体的な学習につながる効果が期待されている考え方です。
 学生は、フィンランドと日本では取り巻く社会環境や文化が違うことを考慮に入れながら、日本の宿題の利点を「時間管理能力が身に付く」「一律の課題を出すことで、学校側が成績や指導の材料にしやすいのでは」などと考察しました。またその上で、「宿題をこなすことが目的になっている」「単純な反復は作業になりがち。費やした時間と学力が比例しないのでは」など宿題のデメリットについても、積極的に意見を出し合いました。
 学生に「自身が教壇に立ったとき、どのような宿題を出しますか」と問いかけると、2年の大渡晴佳さん(20)は「評価のための宿題ではなく、子どもたちが学びを通してハッピーになるような楽しめる教材を考えたい」と話し、関嵩大さん(20)は「『なぜこの宿題が必要か』と目的を説明することで、宿題をする動機付けを明確にさせたい」と力を込めました。1年の山下璃花さん(19)は「学歴だけではなく、個人の良さが発揮できる教育現場を目指したい」と意気込みます。

個の良さ認める発想を
稲葉英彦准教授に聞く

 学生の発表を踏まえ、指導する稲葉英彦准教授にも宿題や家庭学習について聞きました。
稲葉英彦准教授
      ◇
 学生たちの報告から、宿題や家庭学習について何を感じますか?
 「宿題の有無や内容、量などが各学校に委ねられている中で『どのような資質・能力を育むべきか』という観点から、子どもたちが前向きに取り組めるように宿題の出し方を工夫する学校が増えてきている印象があります」
 具体的にはどのような工夫でしょう?
 「例えば小学校の漢字の書き取り。既に覚えている漢字を事務的に反復するのではなく、自分で覚えたい漢字や苦手な漢字を児童が選んで書くなど出し方が変わってきています」
 児童生徒に付与された情報端末が家庭学習にもたらす影響は?
 「コロナ禍で『自分で学べる』環境が加速しました。ある学校では、アプリを使って登場人物や話の内容に関する質問とその解答をクイズとして考える宿題を出しました。児童にとっては、自分が作ったクイズをクラスメートが解き、他者の反応を得ることは貴重な体験です。子どもたちは次第に、自発的に別のクイズを作り出すようになったようです。やらされる宿題から自発的な学びにつながった一例だと思います」
 子どもたちが主体的に宿題や家庭学習に取り組むヒントは何でしょう?
 「その子に合う適切な動機づけや、選択や設定が自らできる宿題を与えることも一案だと考えます。基礎学力をつけるため、学習習慣を作ることは大切ですが、家庭環境や理解度によって事情は異なります。家庭学習にうまく取り組めない子には、その原因を教師や保護者が見つけてあげれば声のかけ方が変わります。その子のペースにあった寄り添いができれば理想的です。子どもの豊かな人生を切り開くことに焦点を置き、個の良さを認める発想が大事になってきます」

 いなば・ひでひこ 静岡大教育学部准教授。公立中、静大付属静岡中に勤務後、県教委事務局静東教育事務所地域支援課指導主事を経て現職。

一貫校で「つながる力」養成
静岡市教育委員会
「地域の日」にボランティアの高齢者とふれあう児童=1月下旬、静岡市駿河区の中田小
 2022年度から「静岡型小中一貫教育」を始めた静岡市教委。近接地区の小中学校が連携し、学習方針を統一したり地域との絆を養ったりしながら「つながる力」の育成を目指しています。
 同市葵区の井宮、井宮北小と籠上中で構成する籠上グループでは、「こんな自主学習やってみよう」という言葉で始まる家庭学習の手引きを各家庭に配布しています。宿題をやる、丸付けをするという一連の流れをチャート式で示す中に、自分の得意不得意を把握させる目的で、「見つける」という項目が入っていることが特徴的です。自ら課題を見つけることで主体的な学びにつなげることを狙います。3校の教諭が定期的に集まって学習指導方針の統一を確認し合い、中学入学後の学習ギャップ解消にも心を配っています。
 小中共通で課題解決型学習に取り組む駿河区の大里中グループ(中田小、大里西小、大里中)では、午前中で授業を終了し、午後の時間の使い方を家庭や地域に任せる「地域の日」を導入しています。1月下旬、中田小の放課後の校庭では、児童と野球や一輪車などで楽しく遊んだり宿題のサポートをしたりする保護者や地域の高齢者の姿がありました。ボランティアで参加する竹田秀逸さん(67)は「地域の子どもたちの様子を知れる良い機会」と話します。3年生の望月千紗さん(9)は「仲良くなったおじいさんと普段でもあいさつをするようになった」と笑顔を見せます。
 「地域の日」は自由に遊ぶだけではありません。市役所や学区内の店舗を訪れ、調べ学習をしたり自分が考えたアイデアを提案したりする児童もいます。同校の蒔田孝校長は「地域の課題を自発的に見つけ解決策を探ることは、考える力や地域への愛着を強めるきっかけになる」と積極的な取り組みを喜びます。

 次回も同じテーマで、現役小学校教諭として斬新な授業に取り組み、教育関連の著書を多数持つ東京学芸大付属世田谷小の沼田晶弘さんのインタビューをお届けします。

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