池田向希(浜松日体高出)パリ五輪内定 日本選手権20キロ競歩優勝 静岡県勢の川野4位、山西失格

男子20キロ競歩 ゴールを目指す池田向希=神戸市六甲アイランド甲南大周辺コース(写真部・堀池和朗) 陸上のパリ五輪代表選考会を兼ねた日本選手権20キロ競歩は18日、神戸市の六甲アイランド甲南大周辺コースで行われ、男子は東京五輪と2022年世界選手権銀メダリストの池田向希(旭化成、浜松日体高出)が、日本陸連の定める派遣設定記録(1時間19分30秒)を突破する1時間16分51秒の大会新記録で連覇し、2大会連続の五輪代表に内定した。
▽男子 ①池田向希(旭化成)1時間16分51秒=大会新②浜西(サンベルクス)1時間17分42秒③古賀(大塚製薬)1時間17分47秒④川野(旭化成)1時間17分59秒⑤高橋(ADワークスグループ)1時間19分1秒⑥丸尾(愛知製鋼)1時間19分6秒
 ▽女子 ①藤井菜々子(エディオン)1時間27分59秒=大会新②岡田(富士通)1時間29分3秒③柳井(立命大)1時間31分25秒④園田(NTN)1時間33分1秒⑤梅野(順大)1時間35分36秒⑥渕瀬(建装工業)1時間36分38秒
男子20キロ競歩 ゴールを目指す池田向希=神戸市六甲アイランド甲南大周辺コース(写真部・堀池和朗)男子20キロ競歩 ゴールを目指す池田向希(中央)=神戸市六甲アイランド甲南大周辺コース(写真部・堀池和朗)男子20キロ競歩 ゴールを目指す池田向希(左端)。同2人目は山西利和、右から2人目は川野将虎=神戸市六甲アイランド甲南大周辺コース(写真部・堀池和朗)男子20キロ競歩 ゴールを目指す池田向希(左)。中央は山西利和、右は川野将虎=神戸市六甲アイランド甲南大周辺コース(写真部・堀池和朗)
 池田は7キロ手前で先頭集団を抜け出し、1キロ3分50秒を切る世界記録ペースで独歩した。残り3キロからややペースを落とし、15年に鈴木雄介(富士通)が樹立した世界記録(1時間16分36秒)の更新こそ逃したが、世界歴代3位の好記録をマークした。浜西諒(サンベルクス)が2位、古賀友太(大塚製薬)が3位。
 川野将虎(旭化成、御殿場南高出)は1時間17分59秒の4位に終わり、個人種目での五輪出場は厳しくなった。世界選手権2連覇の山西利和(愛知製鋼、静岡西豊田小出)は失格した。
男子20キロ競歩 ペナルティーゾーンで待機する山西利和
​ 女子は藤井菜々子(エディオン)が1時間27分59秒で2連覇した。藤井も日本陸連の派遣設定記録を突破し、2大会連続の五輪代表に決まった。岡田久美子(富士通)が2位、柳井綾音(立命大)が3位。派遣設定記録には届かなかった。
圧巻の池田 世界新ペース、驚異の仕掛け  「世界一熾烈(しれつ)」と銘打たれたパリ五輪代表争いを、圧倒的な歩きでねじ伏せた。池田は7キロ手前で先頭に立ち、そのまま世界記録ペースで押し切る驚異のレース運び。世界歴代3位の1時間16分51秒で2大会連続の五輪切符をもぎ取り、「出来過ぎなくらい思い通りのレース。ここを通過点にパリで勝負する」と力強く宣言した。
 鮮やかな仕掛けだった。当初は残り5キロの勝負を想定したが、序盤から世界選手権2連覇の山西が引っ張る展開に「このハイペースを生かそう」とプランを変更。7キロ手前で前に出てさらなるペースアップに集団が反応できないと見るや、「ここが勝機」と3分50秒だった1キロのラップを3分46~48秒に上げ、ここからの5キロで一気に大勢を決めた。
 昨夏の世界選手権(ブダペスト)は15位。前半10キロを38分台で通過したが、故障や体調不良で練習を積みきれなかったことが響き、終盤は1キロ4分ペースが精いっぱいだった。今回は違う。レースと同じ1キロ3分50秒を安定して刻む練習を重ね、「このペースならまだまだいける」という余裕があった。10キロを世界記録より2秒速い38分16秒で通過すると、そのまま16キロまで世界新ペースを維持し日本人2人目の1時間16分台。「単独歩でこの記録は自信になる」と手応え十分だ。
 20キロを引っ張ってきた山西が失格、高橋(富士通)が途中棄権で個人出場の可能性がなくなり、パリでは日本を背負う立場になる。「もう一度、世界で上に行きたいと思ってやってきた。覚悟をもって金メダルを目指す」。昨夏、辛酸をなめた欧州の地に、日の丸を掲げる決意だ。
 (山本一真)
川野は無念の4位 種目変更に翻弄された3年 男子20キロ競歩 4位となり、厳しい表情を見せる川野将虎  50キロで6位入賞を果たした東京五輪から3年。実施種目の変更に翻弄(ほんろう)された川野に待ち受けていたのは、無念の結末だった。五輪切符をほぼ手中にできる3位とわずか12秒差の4位。「自分が未熟だった。心の乱れが出てしまった」と声を詰まらせた。
 池田が16キロ過ぎまで世界記録ペースを上回った高速レース。2番手で追った川野には「あのまま(レースが)進むとは思っていなかった」との見込みがあった。だが、同郷のライバルの背中が遠ざかる展開にリズムが崩れる。浜西、古賀に追い付かれた残り5キロは「池田に追いつく」と食らいついたが、最後に振り切られた。
 主戦場の50キロが東京五輪を最後に国際大会からなくなり、2022年世界選手権銀メダルの35キロも昨春、パリ五輪で実施されないことが決まった。それでも、昨夏の世界選手権では20キロで日本勢が完敗する中、35キロで日本勢唯一の銅メダル。そこから本格的に20キロに転向し、「日本競歩の強さをもう一度、世界で証明したい」と気丈に五輪を目指してきた。自身の不遇にも「準備は完全にできていた。人間としての弱さが出た」と言い訳はない。
 実質的に20キロでのパリ五輪出場は厳しく、残すはリレー形式の混合団体。レース直後こそ「今後は周囲と話し合った上で決めたい」と明言を避けたが、日本競歩界を背負ってきたウオーカーの目はまだ死んでいない。
 (伊藤龍太)
失格の山西 言葉に詰まる  世界選手権2度優勝の実績を誇る山西は中盤で遅れ始め、両足が同時に地面から離れる違反を繰り返したとして失格に終わった。個人種目での五輪出場の望みが絶たれ、言葉に詰まりながら揺れる胸中を明かした。「2018年ごろから1回でも代表選考から漏れたらやめるぐらいのつもりでやってきた。自分にうそはつきたくないが、ここでやめるのも、という思いもある」
 24位に沈んだ昨夏の世界選手権後は厚底シューズを試したが、技術的にかみ合わなかったという。リレー形式の混合団体種目で五輪に出られる可能性がゼロではないが「今後の過ごし方は少し考えたい」と話すにとどめた。
女子は藤井五輪切符  藤井が自己ベストを1分近く縮め、後続には1分強の差をつけた。完勝で、五輪切符の獲得条件を悠々と満たした。「派遣設定記録を突破しての優勝を目標にしていた。ほっとしている」と胸をなで下ろした。
 前半は女子日本記録を持つ八つ年上の岡田との競り合い。「10キロを過ぎても余裕があった」と中盤でペースを上げると、独り旅となった。日差しがきつくなった終盤はやや失速。岡田の記録には18秒及ばなかったものの、両手でガッツポーズをつくり、日本歴代2位のタイムでゴールした。
 東京五輪は強豪に歯が立たず13位。2022年、23年と臨んだ世界選手権でも「海外選手の速いペースに、まったくついていけずショックだった」という。最優先課題はスピード強化。今年1月の合宿では、ハイペースを体に刻み込むように長い距離を歩いた。
 パリ五輪では上位入賞を目指す。春先は海外のレースを転戦する予定。「国際大会は後半のラップが上がり、揺さぶりもある。そういう展開を練習したい」と夏の勝負をにらんだ。
 藤井菜々子(ふじい・ななこ)福岡・北九州市立高で高校総体5000メートル競歩2連覇。20キロは21年に日本選手権で初優勝し、東京五輪は13位。世界選手権は19年に7位、22年に6位入賞。エディオン。159センチ。24歳。福岡県出身。

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