原発処理水放出半年 漁業者は 東電に変わらぬ不信感 福島・いわきルポ【東日本大震災13年】

 東日本大震災から間もなく13年を迎える中、静岡新聞社など全国の地方紙が連携し、読者参加型の調査報道に取り組む「ジャーナリズム・オンデマンド(JOD)パートナーシップ」を通じ、福島県いわき市を訪れた。昨年8月から始まった、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出が続く地元の漁業者らは東電への変わらぬ不信感を口にした。

所有船の前で処理水放出への不安や地域の将来を語る志賀金三郎さん=2月下旬、福島県いわき市の小名浜港
所有船の前で処理水放出への不安や地域の将来を語る志賀金三郎さん=2月下旬、福島県いわき市の小名浜港
福島第1原発 小名浜港
福島第1原発 小名浜港
所有船の前で処理水放出への不安や地域の将来を語る志賀金三郎さん=2月下旬、福島県いわき市の小名浜港
福島第1原発 小名浜港

 2月下旬、原発から南に約55キロ離れたいわき市の小名浜港。漁師歴約60年の志賀金三郎さん(77)は「東電は『基準値以下だから安全』としか説明しない。われわれの不安には応えてくれない」と憤った。
 底引き網漁船の船主としてこれまで、「常磐もの」として高い評価を受けてきた地域の漁業を守り続けてきた。処理水放出による漁の影響や風評被害は出ていないとしたが、「一番の心配はこれからも消費者が安心して食べてくれるかどうかだ」と漏らす。
 福島第1原発では2月に作業員の確認ミスによる汚染水漏れが発生。昨年10月には放射性物質を含む廃液を作業員が浴びる事故も起きた。東電の計画では処理水放出は2051年ごろまでに完了予定。半年間に相次いで起きた事態に声を震わせた。「この先30年、本当に問題なく終わるのか」
 福島県では震災翌年に試験操業が始まって以降、放射性物質の厳しい自主検査を繰り返してきた。地道に安全性を発信する努力を重ね、最大44種に出ていた出荷制限は2月時点で1種のみとなった。それでも23年の沿岸漁業の水揚げ量は震災前の約25%にとどまる。
 気がかりなのは処理水放出でマイナスイメージがつきまとい、次世代の漁師のなり手がいなくなること。地元の魚を地元の漁師が提供できなくなることだ。
 漁師になったばかりの頃に見た、停泊できないほど漁船があふれ、活気に満ちていた港の風景が脳裏に浮かぶ。「小名浜の漁業が続いていくかどうかが懸かっている」と案じた。
 (デジタル編集部・吉田直人)
海洋放出 静岡県「影響なし」 消費者「買って応援したい」  福島第1原発処理水の海洋放出について、静岡県内への風評被害などの影響は「ほとんどない」(漁業関係者)との見方が多い。関係者は「福島や東北産品を買って応援したいという消費者の声が強いと感じる」と、前向きに捉えている。
 福島沖を含む東北沖や東沖と呼ばれる海域で操業する静岡県内の漁業者の多くは、焼津港や清水港で水揚げが多いカツオやマグロなどを漁獲している。県漁連によると、処理水放出による風評被害や相談はこれまで寄せられていないという。
 沼津市の永盛丸は、東北沖で年間約3千トンのカツオを漁獲し、その半分程度を焼津港に水揚げする。荒川太一代表(53)は「放出前は不安だったが、影響はなかった。実感もないくらいだ」と冷静に振り返る。
 放出が始まる直前に福島産フェアを開いた松坂屋静岡店(静岡市葵区)の担当者は当時、来店者による福島を応援する内容の交流サイト(SNS)の投稿が見受けられ、関心の高さを実感した。6日から同店で始まった東北物産展でも、来店客から「(処理水の影響は)気にせず買って応援する」という声が聞かれ、大勢の客でにぎわっている。
 県漁連の薮田国之会長は「消費者の後押しは心強い。国や東電は被害が出た際の対応や漁業振興策をしっかり考えてほしい」と訴えた。

 処理水の海洋放出 福島第1原発1~3号機内では溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷やす注水や建屋内の雨水、地下水により、汚染水が1日約90トン発生。多核種除去設備(ALPS)で浄化し、処理水として原発敷地内のタンクに保管するが、廃炉作業の妨げとされてきた。昨年8月から始まった海洋放出では、大量の海水で薄めてトリチウム濃度を1リットル当たり1500ベクレル未満(国基準の40分の1)にして流している。

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