スポーツ義足の普及 公的支援の充実が必要【とうきょうウオッチ 取材ノートから/記者余論】

 義足開発ベンチャーの代表を務める遠藤謙さん(45)と4年ぶりに再会した。前回の取材は東京パラリンピック前年の2020年。出身地の沼津市で、パラアスリート以外の障害者にもスポーツ用義足を普及する講習会を開催していた。当時は「誰もが走れる環境を大会レガシー(遺産)として残すべき」と語っていたが、残念ながら現状は「変わったという感覚はない」そうだ。

スポーツ義足の普及に取り組む遠藤謙さん(右端)。国内だけでなく、海外の障害者に対する支援も始めた=3月上旬、都内
スポーツ義足の普及に取り組む遠藤謙さん(右端)。国内だけでなく、海外の障害者に対する支援も始めた=3月上旬、都内

 要因の一つは公的支援の不足。通常の義足は保険適用で購入補助が受けられる一方で、スポーツ用義足は全額自己負担のままだ。日常生活に必要不可欠ではないという考えなのだろうが、「走りたい」という欲求はそんなにぜいたくな願いだろうか。体育の授業に参加したり、市民ランナーとしてマラソン大会に出場したり-。できることが増えれば、人生に彩りや意欲が生まれる。日常生活に不要とは思えない。
 遠藤さんはこの4年間、講習会を継続して参加者にスポーツ用義足を提供したり、低価格の商品を開発したりすることで普及に努めてきたという。講習会を機に、運動会の徒競走に挑戦した小学生もいる。独自の取り組みで障害者のスポーツ参加への門戸を広げてきた。
 「本来なら日本がアジアのパラスポーツリーダーになれるはずだった」と遠藤さん。自治体レベルでの補助なども求めてきたが、実施しているのは全国でも一握りに過ぎない。今夏にはパリ・パラリンピックが開催される。関係者がしきりに口にする「レガシー」に実態が伴うよう、公的支援の充実に期待したい。
 (東京支社・山下奈津美)

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