若手職人育む「匠宿」の挑戦 静岡の伝統工芸体験施設 寮整備で働きながら修業

 静岡市駿河区の伝統工芸体験施設「駿府の工房 匠宿」で、職人育成に向けた取り組みが進んでいる。2021年のリニューアル時から指定管理を担う建築設計業「創造舎」(葵区)が、生活を整えながら技術習得や創作に打ち込める環境整備に力を入れている。

鷲巣恭一郎さん(左)から指導を受ける前田結嬉さん=静岡市駿河区の「駿府の工房 匠宿」
鷲巣恭一郎さん(左)から指導を受ける前田結嬉さん=静岡市駿河区の「駿府の工房 匠宿」
インストラクターとして子供たちに陶芸を教える山崎妃毬さん=「駿府の工房 匠宿」
インストラクターとして子供たちに陶芸を教える山崎妃毬さん=「駿府の工房 匠宿」
鷲巣恭一郎さん(左)から指導を受ける前田結嬉さん=静岡市駿河区の「駿府の工房 匠宿」
インストラクターとして子供たちに陶芸を教える山崎妃毬さん=「駿府の工房 匠宿」


 施設はリニューアル後の工芸体験者数の目標が年間約2万人だったのに対し、3万人近くが訪れるようになった。全体的な来館者数も安定し「子どもたちが職人に憧れを抱いた時に道を示せるようにしたい」と杉山浩太館長(39)。染めや木工、漆などの職人が常駐し、工芸品を活用した飲食や物販の施設を併設する特性のほか、展覧会共催などで築いた関連団体との連携態勢が、職人育成の補助環境に適していると判断。寮を整備し、職人を目指す若者を受け入れている。
 昨年入社したのは陶芸家を目指す山崎妃毬[ひまり]さん(23)=富士市出身=。日中はインストラクターとして体験者の指導や事務作業をしたり施設が受託する商品製作を手伝ったりしながら、閉館後に寮などで創作に励む。山崎さんは「来館者との対話を通じ、工芸の魅力をどんな言葉で伝えるか、どんな物が必要とされているかも学んでいる」と実感を込める。
 前田結嬉[ゆき]さん(22)=静岡市葵区出身=は昨年、市が展開する地場産業の後継者育成制度「クラフトマンサポート事業」の実習生として、匠宿内に工房を構える駿河和染職人鷲巣恭一郎さん(44)に弟子入りした。匠宿ではアルバイトとして働く。県外で修業先を探していた時に「育成できる人も場所もない」と言われたといい、「(匠宿は)さまざまな職人がいるのでいろんな感性や仕事の進め方を知ることができる」と充実感をにじませる。
 指導者側もメリットを感じている。鷲巣さんによると、技術継承は職人と弟子の一対一で行われることが多いという。「1人で教えられることには限りがある。支援態勢があることで安心感があり、自分の仕事の幅を広げることもできそう」と話した。
 (教育文化部・鈴木明芽)

技術継承サポート制度、静岡市のみ
 県などによると、郷土工芸の技術継承についてサポート制度を設けるのは県内では静岡市のみ。
 同市は1999年度から、「クラフトマンサポート事業」として技術習得と新規就業を支援している。駿河雛(ひな)具や駿河竹千筋細工といった地場産業の職人を目指す人が申請することで、修業先に指導料(期間に応じて最大月10万円)が支払われるほか、独立後の工房家賃の補助などが受けられる。これまでに約80人が利用した。
 ただ、あくまで後継者を育てる職人へのサポートで修業期間に職人を目指す人に支払われるものではないため、業種によっては修業先で給料が支払われず別でアルバイトをしなくてはならない場合もあるという。

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