リニアトンネル工事の環境対策 薬液注入「効果得られない前提で」 静岡市長がJRに予測要求 「最悪の想定を」とも

 リニア中央新幹線トンネル工事の環境影響について議論する静岡市の事業影響評価協議会(会長・増沢武弘静岡大客員教授)は9日、市役所静岡庁舎で会合を開き、難波喬司市長が南アルプス生態系の保全措置についての市の考え方をJR東海に伝えた。同社が環境影響の回避・低減措置として示しているトンネル湧水の低減工法「薬液注入」は、高被圧で地下水がたまっている場所の掘削では十分な効果が期待できない可能性があるとし、効果がないことを前提に植物の移植などの代償措置を考えるべきだと指摘した。

リニア工事に伴う南アルプスの環境保全措置について静岡市の考えを説明する難波喬司市長(左)=9日午後、市役所静岡庁舎
リニア工事に伴う南アルプスの環境保全措置について静岡市の考えを説明する難波喬司市長(左)=9日午後、市役所静岡庁舎
リニア工事の環境保全に関する静岡市の考えを説明した市協議会=9日午後、市役所静岡庁舎
リニア工事の環境保全に関する静岡市の考えを説明した市協議会=9日午後、市役所静岡庁舎
リニア工事に伴う南アルプスの環境保全措置について静岡市の考えを説明する難波喬司市長(左)=9日午後、市役所静岡庁舎
リニア工事の環境保全に関する静岡市の考えを説明した市協議会=9日午後、市役所静岡庁舎

 国専門家会議が2023年12月に取りまとめた報告書では薬液注入の効果を前提にJRの保全措置は適切だと評価していて、難波市長は異なる見解を示した。
 難波市長は、同工法について湧水の低減効果が期待でき、実施すべきとの考えを示しつつ、高被圧地下水帯掘削時の効果については「より信頼性のある検証が必要」と慎重な見方を示した。影響予測は「薬液注入なし」を前提にすることに加え、不確実性があることを踏まえ、影響が生じる可能性がある場所と程度を「想定外も含めて最大」にすることが適切とした。
 JRの担当者は薬液注入に効果が期待できないとする難波市長の指摘を一部認めた上で、「リスク管理について今後、具体的に考えたい」とした。
 難波市長は、沢の水生生物と植生に影響が生じることは確実で、工事前の代償措置の検討が不可欠だとし、生物の代償措置は「移動により生息の維持や種の保存が可能か評価する必要がある」と述べた。植物については、他の生育域での移植・播種(はしゅ)の検討に加え、高山帯植物はニホンジカの食害で以前から減少しているため、食害分を回復させることを植物群落全体の代償措置として評価するとの新たな考えを示した。
 市が前回の会合で、高標高部にある湧水の水位が工事に伴い低下し、周辺の植物が影響を受ける懸念を示したことを巡っては、JRはリスクを認め、今夏から千枚小屋付近など3カ所で湧水量のモニタリングを実施すると説明した。
(政治部・尾原崇也)

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