静岡消防士殉職事故 会見 謝罪は一歩 検証継続を【記者コラム 黒潮】

 「不愉快な思いをさせてしまったことを心から深くおわび申し上げる」。3月21日、急きょ開かれた静岡市消防局の記者会見-。2022年、葵区呉服町の雑居ビルから出火し、駿河特別高度救助隊の山本将光さん=当時(37)=が殉職した事故を巡り、消防局長と警防部長(3月末で退職)が謝罪した。事故から約1年半がたち、会見で山本さんや遺族に謝罪を述べたのは、初めてのことだった。
 遺族の要望で開かれた“謝罪会見”は市が消防局の組織的課題を検証した報告書を踏まえて事故当時の現場活動の誤りを初めて認めた。警防部長は事故翌日の会見で「活動に問題はなかった」と説明したが、複数の活動が「規範通りではない」と指摘されたことを踏まえて発言を改めた。
 ただ、報道陣に会見の具体的な案内があったのは当日の開始4時間前。警防部長は言葉を詰まらせながら謝罪した一方、消防局長とともに質問に正面からの回答を避けていた印象だった。遺族に質問無制限と説明していたのに、30分ほど経過すると消防局の司会者が「これで最後に」と繰り返し、会見を終えようとした。遺族の要望でライブ配信されたが、配信動画を閲覧できるのは遺族ら関係者のみで今も一般公開されていない。
 遺族は市の検証について、「消防組織が隠す全ての問題点を踏まえ、検証し直してほしい」と難波喬司市長に要望している。市の検証の基になった外部有識者でつくる事故調査委員会の報告書は山本さんの退出時の行動に影響した可能性もある指揮活動や救出活動の問題点など検証不十分な点がある。早い段階で指揮隊に寄せられた火元の情報が駿河特別高度救助隊に明確に共有されていなかった可能性があり、進入目的の指示内容も元隊員の説明と食い違う。
 市は事故調報告書を「最終的な検証としては不十分なところがある」などとし、市の検証結果とも「事実関係が違う点がいくつかある」として相違点を示す資料を作成する方針。隊員らの再聴取など事実を改めて精査することも必要だ。会見で消防局の上層部が組織的な課題の認識を示したことは再発防止への第一歩に過ぎない。事故の本質に迫る検証を繰り返すべきだ。
 (社会部・吉田史弥)

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞