「ダム改造」住民の思いが原動力に 19年前「堆砂」で水害、宮崎・耳川水系 地域団結「惨事防ぐ」

 土砂がダムに流れ込んでたまる「堆砂」は静岡県だけでなく全国的な課題。過去に堆砂の影響で深刻な水害が起きた宮崎県の耳川水系では、水害リスクを減らそうと住民やダム管理者、行政など流域の関係者が協力し、ダムを改造して土砂を下流に流す対策が進む。改造には多額の費用が必要で、環境面から下流に土砂を流す影響を懸念する声もあるが、悲惨な水害を二度と経験したくないとの住民の思いが、対策を推進する原動力になっている。
改造後の2022年=宮崎県諸塚村(九州電力提供)改造前の07年の山須原ダム=宮崎県諸塚村(九州電力提供)宮崎県 山須原ダム西郷ダム 大内原ダム
 「みんな相当つらい思いをした。災害に強い耳川をつくってほしいという思いでいっぱいだった」。中流域に位置する同県諸塚村で自治会組織の代表を務める大橋浩啓さん(68)が思い起こすのは2005年の洪水被害。土砂のたまっていた山須原ダムなどに台風14号に伴う豪雨で周辺の山から土砂がさらに流れ込み、同ダム上流の集落や川沿いの商店街は水没して壊滅的な被害を受けた。
 耳川は、同県北西部の険しい山々が連なる椎葉村から諸塚村、美郷町を通って日向市へと流れる2級河川で、流域に7基の水力発電用ダムが設置されている。九州電力は宮崎大や国土交通省などとつくった洪水対策検討会の議論を踏まえ、11年に山須原ダムと西郷ダムの構造を抜本的に変える「ダム改造」に着手した。ダム中央部の放水ゲートの高さを低くする改造工事を両ダムに施し、出水時の水の流れを利用して土砂を下流に流しやすくした。
 ダム改造だけでなく、下流域の住民の理解や協力が何よりも不可欠だった。関係市町村との議論や地元説明会を何度も繰り返して土砂の管理計画を策定し、土砂の移動状況や影響を毎年チェックしている。流域のダムを管理する九電耳川水力整備事務所の担当者は「住民が当初から協議に参画したことが、土砂を下流に流せるようになった大きな要因」と振り返る。
 ゲートの高さが元々低い最下流の大内原ダムも活用し、土砂を17年から下流域に本格的に流し始め、堆砂の進行が抑えられている。大橋さんは、濁水を懸念しながらも土砂を流すことに協力する下流域住民に感謝する。その上で「ひどい災害が起きてしまってからでは遅い。他の河川でも、将来のことをよく考え、互いに協力し合ってほしい」と強調した。
 (社会部・鈴木紫陽)

 静岡県内でも対策の動き 天竜川、大井川で管理計画
 静岡県内の河川でも流域の行政機関やダム管理者が連携して土砂の管理に取り組んだり、ダムの改造を目指したりする動きが見られる。ただ、宮崎県の耳川流域のような住民参加や、抜本的な対策につながるダム改造の実現には至っていない。
 天竜川水系は国や電力会社など流域関係者が協力して土砂の管理計画を2018年に定めた。国土交通省は今後、佐久間ダムの直下にダムから除去した土砂の仮置き場を設け、大雨など水の流れを利用して土砂を下流へ供給する方針。
 大井川水系でも上流のダムや中流、海岸などにたまる土砂量を調整する目的で国や県、電力会社などが20年に管理計画を作った。ダムの土砂を下流に移動させるため、土砂の動きを定期的に観測していく。国交省静岡河川事務所の担当者は「土砂に関するデータが蓄積すると今後の対策が見えてくる。土砂管理計画は策定したばかり。関係者と連携しながら年月をかけて土砂の問題に向き合いたい」と話す。

 

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