子どもが「放課後児童クラブ」に入れなかった人はどうしているの?【NEXT特捜隊】

児童館(右奥)を活用した麻機第二放課後児童クラブ。児童はおやつや本の読み聞かせを楽しんだ後、広々としたグラウンドで遊んでいた=19日、静岡市葵区  小学校の授業が終わった後、親が仕事を終えるまで子どもを預かる「放課後児童クラブ」(学童保育)。読者から寄せられた疑問を調べる静岡新聞社「NEXT特捜隊」に、静岡市清水区の40代女性会社員から「2年生の娘が児童クラブを利用していますが、4年生になると入れなくなると聞き、心配です。入れなかった人はどう乗り切っているのでしょうか」と質問が届いた。ウェブアンケートを実施したところ、入所できなかった時の対応やクラブ運営への要望などが寄せられた。(生活報道部・伊藤さくら)

 12~15日に行ったアンケートには、静岡県内を中心に72人が回答した。「放課後児童クラブの入所や継続を希望したにもかかわらず、希望がかなわなかった経験がある」と答えたのは12人だった。

1人で留守番  3年生、または4年生で入所できなかったという回答が目立った。4年生の子どもが入所できなかった浜松市中央区の事務員女性(40)は「学校によっては6年生まで入れるクラブもあり不公平さを感じる」と記した。静岡市葵区の会社員女性(53)は「子どもが3年生に上がる時、定員超過で入所できなかった」と振り返った。
 定員超過以外で入所を断念した理由は、「4年生の子どもが辞めたがって退所した」(同区、40代、会社員女性)、「子どもを見てくれる予定だった父が亡くなったため入所申請したが、期限が間に合わなかった」(藤枝市、40歳、事務員女性)など。中には、周囲から4年生は入れないと聞き、申請自体を諦めた人もいた。
 入所できなかった時にどう対処したかを尋ねると、「鍵を渡して留守番」「民間クラブへの入所」「自分や配偶者の親が見る」といった対応が聞かれた。預け先がなく、午前中だけの仕事に変更したり退職したりした人もいて、生活への影響の大きさをうかがわせた。
 富士市のパート女性(36)は「未就学児の時と比べて子どもの居場所が少ない」と指摘。クラブ以外に子どもが安全・安心に過ごせる場所を地域で増やすよう求める意見もあった。

長期休みが負担  クラブ利用に対する意見も募った。入所する利点として多く挙がったのが安全性。下校時に不審者に遭遇したり、交通事故に遭ったりする危険がないと指摘した保護者が多い。友達づくりや、異年齢交流で社会性が身に付くことを期待する声もあった。
 御殿場市のパート女性(48)は利用したクラブについて「宿題をした後はグラウンドで遊んでいた。家にいるより外で遊ぶ環境があってよかった」と振り返る。放課後児童クラブ支援員に対しては「子ども同士のトラブルに耳を傾けてくれた」(静岡市清水区、46歳、自営業女性)と丁寧な関わりに感謝する記述が複数あった。
 一方、長期休みの負担やクラブ運営に対する疑問の声も届いた。三島市のパート女性(35)は「長期休みのクラブの開所時間は学校の登校時間より遅いので、仕事を調整した。お弁当も必要だったが衛生環境が心配だった」という。
 クラブ運営は自治体が民間事業者に委託するケースが増加しているが、浜松市浜名区の会社員男性(43)は「運営する事業者が変わるたびに支援員やルール、連絡手段が変わる」と利用する側の混乱を懸念した。静岡市葵区の公務員男性(49)は「支援員個人の意欲や心意気に依存している。待遇を改善してほしい」とし、支援員全体の質の向上を願った。

現場からの声  支援員経験者からの回答も複数あった。富士市の支援員の女性(60)は「行政が事業者に運営を委託する際は現場の声を聞き、慎重に行ってほしい」と要望。磐田市の支援員の男性(32)は「クラブ以外の友達と遊びたい高学年児童が多くいる」と児童の様子を訴えた。島田市の元支援員の女性(44)も「長期休暇は10時間いる子もいた。子どもを長時間預けて働かないといけない社会を変える必要がある」と意見を述べた。

県内利用登録 4年で3700人増 放課後児童クラブの登録児童数と待機児童数の推移(県内)  共働き世帯が増え、需要が高まる放課後児童クラブ。県こども未来課によると、2023年5月1日時点で利用登録した児童(登録児童)は3万6359人で、待機児童は674人だった。登録児童は19年と比べて3711人増えた。一方、クラブ数が増えたことなどにより、待機児童は434人減少した。
 23年の登録児童は、1年生が最多の1万1781人。これは全1年生(2万7255人)の4割に当たる。2年生1万588人、3年生7877人、4年生3997人、5年生1523人と学年が上がるごとに減少する。待機児童は4年生が296人と最も多く、3年生147人、5年生104人と続いた。
 待機児童が50人以上いる県内自治体は多い順に浜松、磐田、藤枝、島田、静岡の5市(こども家庭庁調査)。人口が多いと待機児童も多い傾向にある。
 県内のクラブ数は756カ所で、19年から56カ所増えた。運営形態としては、自治体が運営を民間に委託する公立民営が最多で567カ所。実施場所は学校の敷地内の施設が281カ所、学校の余裕教室は244カ所だった。

質を高める工夫 必要
石原剛志氏(静岡大教授)
石原剛志氏(静岡大教授)  アンケートの回答や県内の放課後児童クラブの状況について、学童保育や子どもの権利について研究する静岡大教育学部の石原剛志教授に聞いた。
 -アンケートの回答から分かることは。
 「国は放課後児童クラブの設備・運営基準を1クラスおおむね40人程度、広さは児童1人当たり1.65平方メートル以上などと定めている。各市町はこの基準を参考に放課後児童クラブの条例を制定しているが、市町の裁量が大きく実態の差が大きい。アンケートの回答も居住市町による違いが反映されていると感じた」
 -自治体や国に求めることは。
 「市町や国はクラブの数を増やすとともに、質を上げることにも注力するべきだ。クラブでの生活の質が低いと児童が楽しめず、年度途中で退所する場合もある。特に高学年児童が通い続けられるようにするためには、受け入れる量的な問題のみならず、環境整備や支援員の力量が問われる」
 ―運営の受託者に変化はあるか。
 「最近は浜松市や富士市のように、多くの放課後児童クラブの運営をまとめて民間事業者に委託する傾向にある。一括して運営できるのは、経営規模が大きな事業者に絞られる可能性があり、保護者や子どもの声まで反映されているとはいえない。小規模な社会福祉法人やNPO法人など多様な事業者が参入できる仕組みを市町に検討してほしい」
 -運営側に必要なことは。
 「アンケートでは放課後児童クラブ支援員の入れ替わりの多さを懸念する意見が複数あった。子どもには、いつも自分を見てくれているという安心感が必要。支援員の入れ替わりが激しいと子どもたちは不安定になる。子どもと支援員の信頼関係構築に重きを置くためにも、パートの支援員だけではなく、もっと常勤の支援員を配置する必要がある」

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