静岡県知事、求められる「リニア解決」姿勢 川勝氏はルート変更固執、県内外の関係修復急務【知事選2024 リニアの行方㊤】

 「喝破しなさい」「論破してみせなさい」。5月10日で辞職する川勝平太知事がリニア中央新幹線工事の水問題の対応で静岡県幹部と協議する際、よく使った言葉だ。「誤りを正す」相手はJR東海で、矛先は主に金子慎社長(当時)に向けられた。県幹部は「リニア開業の遅れを静岡県だけに押し付けているような一連の発言が許せなかったようだ」と話す。2回目のトップ会談に臨む川勝平太知事(左)とJR東海の金子慎社長(当時)。お互いに公の場で相手を非難するなど信頼関係が構築されることはなかった=2022年9月13日、静岡県庁(代表撮影)
 2021年6月の知事選で「リニア工事から命の水と南アルプスの自然環境を守る」と訴えた川勝知事。自民推薦候補に30万票以上の大差で圧勝し、4選を果たした。選挙戦でJRに検討を求めたのが、県内を迂回(うかい)させるリニア計画ルートの変更だ。
 しかし、14年10月に現行ルートで国の認可を受け、すでに工事を進めているJRが方針転換することは通常、あり得ない。川勝知事に近い関係者によると、知事はJRに決断させるために、現行ルートでは開業のめどが立たず、経営的にルート変更を判断せざるを得ない状況に追い込む手法が有効と考えたという。
 本来、リニア事業推進と環境保全の両立を図るための県専門部会の議論は、山梨県で進むボーリングが県内に近づくことすら認めないなどJRへの要求がエスカレートしていく。ある専門部会委員は取材に「立場上、県の求めには応じるが、およそ科学的な議論とは言えない」と打ち明けた。
 23年12月、JRが静岡工区で着手の見込みが立たないことを理由にリニア品川―名古屋間の開業時期を従来の27年から「27年以降」に変更すると、川勝知事は幹部職員の前で「勝利宣言」したとされる。辞意表明翌日の4月3日の会見では、JRが静岡工区工事に約10年を要すると明らかにしたことと合わせ、「工事計画の根本的な見直しになる」と自身の成果のように強調してみせた。川勝知事を支持していた大井川流域からは「工事を遅らせることが目的で、水問題を解決するつもりなんて最初からなかったのか」(利水団体代表者)と、怒りにも近い声が上がった。
 県内政治に詳しい静岡大の井柳美紀教授(政治学)は「川勝知事ができたのは県民の不安を国に届けるまで。国と地域で利害が相反する問題を解決するという政治家に本来求められる姿勢が欠けていた」と分析する。次の知事の最初の仕事は、川勝知事が持論を通そうとするあまり県内外でこじらせた関係の修復だと指摘する。
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 リニア問題を巡り、国やJRと激しく対峙(たいじ)した川勝知事が県政から退場することになり、解決は次の知事に委ねられた。残された課題を探る。

 <メモ>JR東海は2014年8月にリニア工事の環境影響評価書を国に提出し、同年10月に工事実施計画の認可を受けた。ただ、県は「南アルプスの自然と大井川水利用の特殊性を考慮すると、県民が安心できるレベルの環境影響評価になっていない」として、18年10月に設置した県専門部会で現在も議論を続けている。JRが県内で工事に着手するには大井川流域の市町や利水団体と水資源保全に関する合意を得るほか、河川法に基づく県の許可を受け、県と自然環境保全協定を締結する必要がある。リニア中央新幹線のルート

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