耳に残る「恐怖の地鳴り」 土砂一気、悲鳴「逃げて」 熱海土石流、記者が見た発生の現場

 見上げた空は青く、あの日と全く違う表情をしていた。熱海市伊豆山で発生した大規模土石流から10日で丸1週間。大量の泥で埋め尽くされた国道135号の逢初(あいぞめ)橋付近は、土砂や倒壊家屋の撤去作業が急ピッチで進んでいた。しかし、あの日耳にした地鳴りや建物がつぶれる音は、今も耳から離れない。

土石流が到達した逢初橋付近=3日午後0時20分ごろ、熱海市伊豆山
土石流が到達した逢初橋付近=3日午後0時20分ごろ、熱海市伊豆山
土石流発生から1週間がたち、土砂がおおむね撤去された逢初橋付近=10日午後5時ごろ、熱海市伊豆山(画像の一部を加工しています)
土石流発生から1週間がたち、土砂がおおむね撤去された逢初橋付近=10日午後5時ごろ、熱海市伊豆山(画像の一部を加工しています)
土石流が到達した逢初橋付近=3日午後0時20分ごろ、熱海市伊豆山
土石流発生から1週間がたち、土砂がおおむね撤去された逢初橋付近=10日午後5時ごろ、熱海市伊豆山(画像の一部を加工しています)

 前日から静岡県内各地で冠水や土砂崩れが相次いでいた。「熱海は大丈夫だろうか」。そんな心配をしつつ、市内のホテルで取材途中だった3日午前、土石流発生の一報は飛び込んできた。すぐに車で現場方面に向かった。
 国道135号を伊豆山方面へ。市街地を過ぎ、逢初橋を渡った辺りの道路に土砂が流出し、1車線をふさいでいた。現場は近い。住民に情報収集をしようと近くに車を止めて、徒歩で取材を始めた。「山の上の方が崩れたらしい」「家が流されたようだ」―。不穏な雰囲気が集落を包む。
 「この辺りで土砂災害なんて聞いたことがない」。住民から聞いた次の瞬間、ゴゴゴォーと大きな地鳴りが聞こえ、一気に大量の土砂が国道に流れ込んだ。ミシミシと音を立てて路線バスが押し流され、住宅の柱や壁が破壊されていく。「逃げて!」。住民の声が飛び交い、恐怖におびえる子どもの悲鳴が聞こえた。
 安全な場所に避難したものの、ぼうぜんと立ち尽くしていた和田盛治さん(82)は「たぶん、うちはだめだろう」と力なくつぶやいた。既に会員制交流サイト(SNS)では、土石流が住宅を押し流す様子を捉えた動画が拡散されていた。
 市役所や警察に行って被害状況を確認しようにも、国道は土砂で完全に寸断され、熱海ビーチラインも通行止め。他の道もことごとく行き止まりに。冷静さを失わないよう自らに言い聞かせるが、初めての立ち往生に不安は募る。
 熱海市街地に戻るには神奈川県小田原市まで出て箱根峠に上り、十国峠を経由するしかない。行き場を失った車の大渋滞もあり、逢初橋付近から直線距離で約2キロの市役所まで約5時間を要した。
 悪夢から1週間。逢初橋周辺にがれきはまだ残っているものの、土砂に押し流されたバスなどは撤去されていた。家の取り壊しを見届けに来たという石井裕隆さん(36)は「思い出の写真を少しだけ持ち帰ることができた。悲しいけど、このまま立ち止まっているわけにはいかない。伊豆山のためにできることをやりたい」と気丈に語った。
 (熱海支局・豊竹喬)

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