記者コラム「清流」 生き物と文化財

 大学時代、古文書調査をしていたときの天敵は虫だった。紙魚(しみ)は紙を掘るようにして食べ、ボロボロにしてしまう。生き物と文化財の保護は対極にある関係と思っていた。
 長泉町のヴァンジ彫刻庭園美術館は庭園で観察できる生物を紹介するイベントを企画した。話を聞いた学芸員の言葉にはっとした。「多くの作家が自然から着想を得て制作してきた。自然と美術は切っても切り離せない」。作家と同じように自然を楽しみながら美術に触れるという体験は、作品への愛着を高める手段になるように思う。
 文化財や芸術作品を守るには、私たちが大切に思う気持ちも不可欠。生き物は敵ではなく、共存できる。保存を助ける可能性もあると感じた。
 

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