記者コラム「清流」 ノーベル賞で脚光 井上靖

 「南紀の海はその一角だけが荒れ騒いでいた-」。ノーベル物理学賞を受賞し、米国の自宅で取材を受けたプリンストン大学上級研究員の真鍋淑郎さんの背後に飾られていた書作品は、井上靖の詩の一節だった。
 詩は処女詩集「北国」に収められた散文詩「渦」の冒頭。長泉町井上靖文学館の学芸員徳山加陽さんによると、井上は友人が住む和歌山・南紀の情景を描き、小説のモチーフにもなったという。「知名度は決して高くなく、なぜこの一節を抜粋したのか」と驚く。
 同館には書を誰が書いたのか問い合わせが相次いだが、不明だという。「知っている方がいれば教えてほしい」と徳山さん。没後30年で思わぬ脚光を浴びた井上作品。私も読んでみようか。
(東部総局・菊地真生)

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