コロナ禍の危機管理 心に寄り添う行政を【黒潮】

 新型コロナウイルス第5波を巡るワクチン接種や経済活動の再開に向けた取り組みを取材し、「行政は心に寄り添い、応える存在であってほしい」という思いを新たにした。
 「『この街に住んだばかりに』と不幸に感じた」
 静岡市に住む育児中の女性(39)の言葉は痛烈だった。女性は家庭内感染を避けたい一心で早くワクチンを打ちたかったが、予約すらできず、ひどくいら立ったと明かした。
 確かに静岡市の接種は浜松市など他市町と比べ遅れ、初期のつまずきを挽回できずに夏場を迎えた。国内の接種は欧米より約2カ月遅れて始まり、「せめてわがまちは速やかに」という願いに応えられなかった。
 「不幸」という感情を抱かせてしまったのは、地元行政として痛恨だろう。予約システムの一時停止や余剰ワクチンの発生懸念などトラブルが続き、医師会幹部から制度設計の甘さを指摘する声が上がった。別の女性(41)は「行政力に不安を感じた」と話した。重く受け止めてほしい。
 一方、県が緊急事態宣言の解除に伴い飲食店の営業を全面解禁した判断は、お金と労力をかけて感染対策の「安全・安心認証」を獲得した店舗の努力を軽視するものだった。
 川勝平太知事は飲食店クラスター(感染者集団)が相次げば営業時短要請すると表明した。もし対策がずさんな非認証店で集団感染が複数発生した場合、認証店が巻き添えを食う格好になる。関係者から不満が噴出したのは当然だ。
 宣言解除以降、幸いにも飲食店クラスターは起きていないが、あくまで結果論に過ぎない。庁内には「全面解禁ありきの施策」との指摘があり、「担当部署はこの1カ月、恐れた事態が生じないよう祈る気持ちだったろう」と冷ややかな反応も聞かれた。
 ワクチン接種や抗体療法の実施が進み、今後、感染が再流行しても死者や重症者は増えにくいとの見通しはある。ただ、相手は動きの読めない新しい感染症。住民には常に不安やいら立ちがつきまとう。その感情をほぐすような、血の通った危機管理を期待したい。

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