サクラエビ秋漁が解禁 地域の成長余力生かせ【黒潮】

 駿河湾サクラエビ秋漁が解禁し、大井川港で10月28日夜にあった初水揚げを取材した。漁船から降ろされる半透明の魚体は美しい。自然の神秘を感じる瞬間だ。
 2018年秋漁の全面休漁以降、漁業者は漁獲自主規制に取り組んでいるが、資源量は思うようには回復していない。ことしの秋漁解禁以降、主産卵場の湾奥で由比・蒲原地区(静岡市清水区)の80隻が資源調査を複数回行ったが、魚影は見当たらない。
 ことしの春漁終盤で湾奥に群れが確認できたことなどから、県は「回復の初期段階」とする。しかし、最盛期の1960年代後半に比べ60分の1まで減った昨年の漁獲量を見れば、由比・蒲原地区と大井川・小川地区(焼津市)の計120隻で依然行われている漁は曲がり角を迎えていることは明らかだろう。
 漁業を産業として考える場合、漁だけではなく加工や流通、消費、さらにはそれらを掛け合わせた6次産業化の視点がよく語られる。そして、そのヒントは常に地域のなかに眠っている。
 例えば、大森信東京海洋大名誉教授は、実質使っていない漁船を観光船に回すことを提言する。由比・蒲原地区の旧宿場町の風情が残る間口が狭く奥行きが深い古民家を宿泊施設として利用してはどうか。
 また、かつて行われていた「宵売り」と呼ばれる水揚げ直後の夜の競りを復活させ、そうした機会でしか楽しめない新鮮な味わいと組み合わせることが考えられる。少し山に入ればミカン狩りもある。
 経済的苦境の「乗り子」と呼ばれる乗組員にも経済波及効果が出るかもしれない。
 問題は、打ち続く不漁がそうしたことに一歩踏み出すための元気を奪っていることだ。
 不漁の原因は複合的だ。資源量の推定もまだ先のことだろう。であるなら、できることはダメもとでやってみるしかない。「サクラエビ異変」のいまだからこそ、注目もされる。逆境を大きなチャンスに変える知恵と後押しが必要だ。
 (清水支局・坂本昌信)

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