磐田・遠江国分寺跡 半世紀ぶり再整備 遺産価値の認識向上を【解説・主張しずおか】

 磐田市の国指定特別史跡「遠江国分寺跡」で、約半世紀ぶりの再整備が本格的に始まった。2025年度末の終了をめどに、建築物の土台部分を木で覆っていた「木装基壇[きだん]」の復元などを進める。県内では登呂遺跡、新居関跡とともに最高位の国の特別史跡に指定される一方で、有形物が無く、古代の姿を想像しづらい側面があった。整備と並行し、市が誇る歴史遺産との認識をいま一度醸成する取り組みも必要だ。

再整備工事が始まった国指定特別史跡「遠江国分寺跡」=9月末、磐田市
再整備工事が始まった国指定特別史跡「遠江国分寺跡」=9月末、磐田市

 遠江国分寺は約1300年前の奈良時代、疫病流行などで不安定だった世の平安を願い、聖武天皇の命で全国60カ所以上に造られた国分寺の一つ。JR磐田駅北口から約1キロと徒歩圏内で、市役所に近接する。1923年に国史跡、発掘調査後の52年に特別史跡の指定を受け、71年に史跡公園として整備された。
 市や市教委によると、再整備事業は未来への継承に向けた遺構の保護が最優先の目的だが、近年の発掘調査(2006年度~14年度)で判明した新たな発見を反映し、史跡をより身近に感じてもらう工夫を凝らすという。
 現在は広大な緑地の中に、主要建物の場所を示す説明看板が点在する。ただ、普段から多くの人が訪れている様子は見られない。奈良時代を代表する遺跡は県内でも数少なく、違いを出すことができる地域の財産だ。その歴史的価値と現実の雰囲気との隔たりにもどかしさを感じる。
 発掘調査で金堂や回廊、塔(七重塔と推定)、講堂など主要建築物のほぼ全ての土台が木装基壇だったことが分かっていて、計画ではこれらを復元する。さらに金堂の正面に存在したとされる木製支柱を持つ高さ3メートルの灯籠を整備する。史跡内を巡る散策ルートや休憩用のあずまやも設置する予定だ。
 市の中心部にある国分寺史跡は全国的に珍しいとされるが、恵まれた立地の一方で、本格的な活用策は限られていた。今回の再整備で、イメージしづらかった遠江国分寺を一部可視化できるのは進展だ。
 ソフト事業で企画中という画面上に建物が浮かび上がるAR(拡張現実)の活用や、市民有志の実行委員会が開催する「国分寺まつり」とも連動し、まずは史跡を目的地に訪れる人の流れを生むことが重要となる。
 市教委発行の整備計画冊子には「わたしたちの国分寺」とある。世代にかかわらず、わがまちの歴史遺産を守り、学び続ける機運づくりにも努めてほしい。

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