選択的夫婦別姓制度 若い感覚 選挙で反映を【黒潮】

 10月に行われた衆院選では、選択的夫婦別姓制度について、導入に慎重な自民党を除く主要政党のほとんどが制度の実現を公約に盛り込んだ。夫婦の姓に関する決まり事が、一部の関心事でなく、ジェンダー不平等を象徴する課題として認知され始めたように思う。
 選挙に合わせ、夫婦別姓を望んだため事実婚を選んだという三島市在住の夫婦に話を聞いた。意外だったのはその理由が、妻の側も「家を継ぐため」ということ。男兄弟のない旧家の長女で、必要があったという。少子化が進む中、こうした状況は珍しくないだろう。
 この夫婦の事情を聞くと、導入反対論で語られる「日本の伝統的な家族観が壊れる」という懸念には疑問符が付く。彼女の場合、同じく旧家出身の義母が、改名した上で実家の面倒を見るのに大変な苦労をしていて、事実婚に賛成したそうだ。
 ただ、別姓を希望して、事実婚という決断をする女性は一部。多くの場合は法律的に結婚して改姓し、必要があれば旧姓を通称として使用しているのではないかと思う。記者もそうで、公的証明書類の旧姓併記など、近年進む通称使用の拡大はありがたい。
 だが、戸籍名と同様に使えるようになったとしても、通称はあくまで通称。一人の人間が二つの名前を持つ状況は変わらず、自分にとって唯一の名前を大切にしたいと思う人にとっては、根本的な問題解決にはならないに違いない。
 若者のこの問題に対する感覚はずっと鋭敏だ。総務省の調査では若い世代ほど制度導入に肯定的な傾向が顕著。県内大学の授業で行った討論の様子も伝え聞いたが、子どもの姓の問題を懸案事項としつつも、「選択は自由」「同姓を強いるのは価値観の押しつけ」などと賛意を示す学生が大半だったという。
 選挙結果を見れば、こうした価値観の問題を一票の理由にする有権者は限られるのかもしれない。選択的夫婦別姓も含め、多様性を指向する若者世代の投票率は低い。この世代が意識的な投票行動を取れば、影響は大きいと思うのだが。

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