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ふじのくに⇄せかい演劇祭2024開幕! 安部公房やチェーホフ、5作品を静岡で

 静岡県舞台芸術センター(SPAC)の「ふじのくに⇆せかい演劇祭2024」が静岡市内で開幕しました。5月6日までのゴールデンウイーク期間中、安部公房やチェーホフなど、国内外の戯曲5作品が静岡市内各地で上演されます。演劇祭の狙いや歴史、今年の目玉を1ページにまとめました。

安部公房の代表戯曲、鳥取の劇団とコラボ上演 集団と個の間の葛藤描く

 国内外の舞台芸術作品を紹介する静岡県舞台芸術センター(SPAC)の「ふじのくに⇄せかい演劇祭2024」が27日に開幕するのを前に、26日、各作品の通し稽古が静岡市駿河区の舞台芸術公園などで行われた。

通し稽古をする「友達」の出演者=静岡市駿河区の舞台芸術公園
通し稽古をする「友達」の出演者=静岡市駿河区の舞台芸術公園
 SPACと鳥取市を拠点にする劇団「鳥の劇場」の共同作「友達」の出演者やスタッフは同公園内の野外劇場で、実際の開演時間に合わせて最終確認をした。同作は今年生誕100年の作家安部公房の代表戯曲で、「鳥の劇場」の中島諒人芸術監督が演出した。中島芸術監督は「人間が生きるためには集団が必要な一方で自由を求めるという葛藤は、現代社会に通じる。二つの劇団の素晴らしい俳優の個性を引き出せるよう心がけた」と話した。
 演劇祭は27日~5月6日に同公園や静岡芸術劇場(駿河区)で開催。「友達」をはじめ、ドイツの劇場による「かもめ」など5作品を上演する。問い合わせはSPACチケットセンター<電054(202)3399>へ。
(教育文化部・鈴木明芽)
〈2024.4.27 あなたの静岡新聞〉

5月6日まで開催。概要は?

上演作品について説明する宮城芸術総監督=静岡市駿河区の静岡芸術劇場
上演作品について説明する宮城芸術総監督=静岡市駿河区の静岡芸術劇場
 静岡県舞台芸術センター(SPAC)は15日、静岡市内でゴールデンウイークに開催する「ふじのくに⇄せかい演劇祭2024」の上演作に関する発表会を同市駿河区の静岡芸術劇場で開いた。4月27日~5月6日に国内外の5作品を届ける。
 SPACと鳥取市の劇団「鳥の劇場」との共同作品となる安部公房作「友達」のほか、SPACの拠点の一つである舞台芸術公園(静岡市駿河区)周辺を散策しながら演劇を楽しむ「かちかち山の台所」、ドイツの演出家トーマス・オスターマイアーさん率いる劇場「シャウビューネ」によるアントン・チェーホフ作「かもめ」など。同時開催する「ふじのくに野外芸術フェスタ2024静岡」では、駿府城公園(同市葵区)の特設会場で、岡倉天心のオペラ台本を下敷きにしたSPACの新作「白狐伝」を披露する。
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「かもめ」の一場面(c)Gianmarco Bresadola(提供写真)
SPAC宮城芸術総監督「20年後、見た人の体に残る作品を」  宮城聰芸術総監督は「他者との関係に期待せず、自己完結する処世術が広がっている」と社会情勢を指摘。「今は鑑賞するために努力やエネルギーが必要かもしれないが、20年後にも見た人の体に残り自身の成長や変化が感じられる作品を選んだ」と語った。
 期間中の5月4~6日には、国内外のアーティストが静岡市中心部でストリートパフォーマンスを披露する「ストレンジシード静岡2024」も行う。
(教育文化部・鈴木明芽)
〈2024.3.16 あなたの静岡新聞〉

参加型演劇でまちの魅力気づいて

「かちかち山の台所」劇作家・石神夏希さんが語る  地域やまちを舞台にした演劇を多く手がける。静岡市の「まちは劇場」事業に加え、2022年から県舞台芸術センター(SPAC)の作品に携わる。27日からの「ふじのくに⇄せかい演劇祭」では、観客が舞台芸術公園周辺を巡って鑑賞する「かちかち山の台所」を披露する。東京都生まれ、43歳。

石神夏希さん
石神夏希さん
 ―演劇との関わりは。
 「小学生の時に演劇を見て、10代で友人と作った劇団を続けている。劇場に足を運ばない人と出会いたいという気持ちが高まり、まちに滞在してリサーチを重ね、そこで暮らす人と作品をつくるスタイルに軸足を移した。人々の思いやエネルギーが土地の価値を高めると実感し、演劇がその循環に好影響をもたらす可能性も感じる」
 ―地域やまちを舞台にした作品の意図は。
 「プロセスも作品の一部として開示する『アートプロジェクト』という考え方に影響を受け、参加型の演劇を手がけてきた。一人一人が自分のいる場所と出会い直し、関係性を結び直すきっかけになれば」
 ―静岡での活動は。
 「社会に閉塞(へいそく)感が漂い、若者の自殺率が高まっているのが気になっている。そんな中、公的な劇場や演劇という選択肢が静岡にあることに安心する。この環境を維持できるよう努力したい。20年に静岡に移住してから子供が生まれ、子育てが創作に生かされることがある」
 ―「かちかち山―」の見どころを。
 「大まかな内容は誰もが知っているが、時代によって少しずつ変化している。物語の舞台と舞台芸術公園周辺の自然環境を重ね、土地の魅力を再認識する機会にしてほしい」
(教育文化部・鈴木明芽)
〈2024.4.24 あなたの静岡新聞〉

原点は1999年 演劇で「静岡県」と「世界」につながりを

 ※2016年5月27日静岡新聞朝刊「解説・主張」から

SPAC新作が上演された駿府城公園の特設会場。4日間の公演は全て満席だった=静岡市葵区
SPAC新作が上演された駿府城公園の特設会場。4日間の公演は全て満席だった=静岡市葵区
 今年で6回目となった県舞台芸術センター(SPAC)「ふじのくに⇆せかい演劇祭」は、ゴールデンウイーク(GW)に静岡市内4会場で上演した国内外7作品に、計約5500人の観客を迎えて閉幕した。劇場の外に目を向けると、街中での上演など新たな試みも進む。演劇を通じて文化の多様性に親しむ機会として発展させたい。
  「アジアで生まれた古事記のエピソードが、実は北米大陸まで伝わっていたという仮説に立ってみました。文化の出合いを楽しんでください」。5月2日夕、駿府城公園で初演した「イナバとナバホの白兎[うさぎ]」の開演に当たり、宮城聰芸術総監督が演出の意図を語った。特設会場の500席は、4日間全て満席になった。
  せかい演劇祭の原点は、国際的な舞台芸術の祭典「シアター・オリンピックス」。1999年、ギリシャ・アテネに続く第2回大会を静岡市で開き、翌年以降はSPACが独自事業の「Shizuoka春の芸術祭」として定着させた。2011年には、本県と世界の演劇を通じたつながりを強く印象付ける現在の名称に変更した。
  元々は5月ごろから約2カ月、市内の静岡芸術劇場と舞台芸術公園で週末ごとに開催してきた。静岡芸術劇場が入るグランシップの改修工事が行われた14年、閉館期間の事情からGWの集中開催に変更。「いざ変えてみると、静岡が最も美しく輝く時期。好きな作品を見て、ぜひ宿泊していってほしい」(宮城監督)と滞在型の集客にかじを切る転機になった。
  滞在客向けのイベントは、俳優やスタッフと触れ合う茶摘み会や交流バーなどを企画。今年は市との連携で「まちは劇場」を掲げる路上公演も実施した。有料公演にシンポジウムなどの関連イベントを合わせた来場者は、例年の3倍近い1万3千人に達した。
  県出資の劇団として、有料入場者数は事業の検証に欠かせない指標になる。演劇ファンの来場は安定し、北海道や九州からの常連客も少なくない。一方で、日頃は劇場に足を運ばない地元の市民に多様な価値観を提示することは、努めて意識すべき目標になっている。
  劇場を飛び出した取り組みは、協力者の手を借りて回数を重ねるごとに活発化している。市民協働で関心を高め、開催の意義を実感できる形で文化の土壌を耕していきたい。(宮城徹)
地域再生大賞