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新たな農業のスタイル「野菜工場」、静岡県内に続々誕生

 3月、袋井市に世界最大級の生産能力を見込むリーフレタスの完全人工光型植物工場が完成しました。工場での野菜の栽培は食料の安定供給を実現したり、無農薬での生産が可能になったりするなど新たな農業スタイルとして注目され、近年、植物工場は急速に増えています。殊に静岡県内には世界最大級の規模を誇る工場が相次いで誕生しています。私たちの生活に馴染み深くなった「工場生まれ」の野菜。静岡県内を中心にその現状をまとめます。

袋井に工場生産のリーフレタス 世界最大級の生産能力

 中部電力などが出資するツナグコミュニティーファーム(袋井市堀越)は1日、世界最大級の生産能力を見込むリーフレタスの完全人工光型植物工場「テクノファーム袋井」(同)の出荷式を実施した。

植物工場「テクノファーム袋井」の出荷式で執り行われたテープカット=袋井市堀越
植物工場「テクノファーム袋井」の出荷式で執り行われたテープカット=袋井市堀越
 工場は2021年10月に起工し、24年1月に稼働を開始。同2月25日に初出荷をした。工場ではITを活用し、光や温度などの生育環境、種まきや収穫などの生産工程が自動化され、計画的な無農薬栽培が可能。スマート農業の先進的事例、持続可能な開発目標(SDGs)の達成につながる事業として期待されている。
 式典では、ツナグコミュニティーファームの林俊弥代表が「関係者の努力と協力のおかげで出荷を迎えることができた。生育した安心・安全なレタスを届けて社会課題に応え、地元に愛される工場を目指していく」とあいさつ。出席した袋井市の大場規之市長は「世界にとどろくビジネスが袋井で始まることをうれしく思う。不安定な食料情勢が課題とされる中、産業の未来を切り開いてほしい」と期待を込めた。
 同社は中電など計3社が21年7月に設立。1日当たり10トンの生産を目指す。
(袋井支局・北井寛人)
〈2024.03.02 あなたの静岡新聞〉

野菜工場のレタス 沼津の学校給食に

 近藤鋼材グループの「エルフィーグリーン」(三島市、近藤優衣社長)の野菜工場で水耕栽培されたレタスがこのほど、沼津市の学校給食に採用された。14日は金岡小で同社のレタスを使ったレタスチャーハンが提供され、近藤社長らが2年生の児童に工場での栽培や食育に関する授業を行った。

水耕栽培のレタスについて説明する近藤社長
水耕栽培のレタスについて説明する近藤社長
 授業で近藤社長は環境に配慮して太陽光発電した電気を使い、レタスを栽培していると児童に紹介し「地元の野菜をみんなが食べることが、地産地消になる」と説明。工場での栽培は、安定的な供給や地域の雇用創出にもつながるとした。同社で派遣研修中の田方農高の大場智之教諭は、水耕栽培の仕組みについて解説した。
 児童たちは給食で出されたレタスチャーハンを味わった。2年の羽切琥汰朗君(8)は「シャキシャキしていておいしい」と笑顔でほおばった。
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水耕栽培のレタスを使ったチャーハンが提供された給食=沼津市の金岡小

 同社のレタスは、静岡県学校給食会沼津支部を通じ、沼津市内の小中学校7校で使用される。
〈2023.11.15 あなたの静岡新聞〉

三島に植物工場完成 リーフレタス栽培
※2021年10月5日 静岡新聞朝刊
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工場を見学する竣工式の出席者=三島市平田

 沼津市の鉄鋼商社「近藤鋼材」グループのエルフィーグリーンが三島市平田で建設を進めていた植物工場が完成し、4日に竣工(しゅんこう)式が現地で開かれた。
 工場の屋根に設置した太陽光パネルで発電し、発光ダイオード(LED)による完全人工光で3種類のリーフレタスを水耕栽培する。鉄骨造り2階建てで、延べ床面積は約2300平方メートル。一日の生産量は最大1万1千株を見込み、グループ全体では清水町の既存工場も含めて3・5倍に高まる。
 天候に左右されずに1年を通じて安定的な生産が可能なほか、朝夕の時間帯や植物の種類、成長具合に応じて最適な波長の光を照射するなど効率的で高品質な栽培を進める。地元で湧き出る富士山からの伏流水も使い、「柿田川野菜」のブランド名で県内と首都圏のスーパー、レストランなどへ出荷するという。三島にちなんだ新品種の開発にも乗り出し、近藤優衣社長は「食べることで地元を元気にする思いを伝えていきたい」と語った。

静岡県内に続々誕生していた 最大級の「野菜工場」

沼津に次世代植物工場 水耕ホウレンソウを量産へ

約5メートルの高さまで、LED照明を使った水耕栽培棚が並ぶブロックファームの次世代型植物工場=26日午後、沼津市原
約5メートルの高さまで、LED照明を使った水耕栽培棚が並ぶブロックファームの次世代型植物工場=26日午後、沼津市原
 三菱電機グループの菱電商事(東京)と農業ベンチャーのファームシップ(同)の合弁企業「ブロックファーム」(沼津市)は(2022年5月)26日、同市原地区に建設した次世代型大規模植物工場の完成式を行った。閉鎖型の人工光植物工場としては世界初の水耕栽培ホウレンソウの量産に取り組み、年間最大千トンの生産を見込む。
 工場は国道1号沿いに立地し、敷地面積2万平方メートル。鉄骨2階建て、延べ床面積7600平方メートルと世界でも有数の規模。約100人の新規雇用を予定する。種から成長した苗を栽培用パネルに植え替える作業や、LED照明が並び、約5メートルの高さがある水耕栽培棚へのパネルの上げ下ろしなど、収穫を除く多くの工程で機械化を進めた。
 屋根には太陽光発電パネルを設け、必要な電力の15%前後を賄う。空調などを自動管理する環境制御システムも導入し、使用電力を従来比で約5割削減した。
 ホウレンソウは約35日で出荷できる。今年8月から量産し、スーパーなど一般消費者向けのほか、季節を問わず安定供給できることから総菜製造など業務用需要の獲得も目指す。
 新田貴正代表は式典で「省エネと収益性を両立させ、安定かつ効率的な生産を進めたい」と語った。
(東部総局・尾藤旭)
〈2022.05.27 あなたの静岡新聞〉

完全人工光の植物工場 藤枝で操業開始
 ※2020年7月1日 静岡新聞朝刊
 東京電力エナジーパートナー(EP)は(2020年6月)30日、藤枝市で完全人工光の植物工場の操業を7月1日に開始すると発表した。生産能力は1日5トンで、完全人工光では世界最大級という。
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東京電力エナジーパートナーが藤枝市で操業を開始する完全人工光の植物工場の内部(同社提供)

 レタスなどの葉物野菜を発光ダイオード(LED)の光で育てる。当初は1日1トン規模で生産を始め、8月ごろからコンビニエンスストアのサンドイッチやサラダ用などに出荷する。1年後に生産を5トンに拡大する方針。
 3年後に黒字化を目指す。

宇宙空間での野菜の生産 研究進む

「月面に農場」技術確立へ 千葉大に研究拠点

※2023年7月16日 静岡新聞
人類の月面への進出を見据え、千葉大が今年1月、宇宙空間での野菜や果物の生産を目指す「宇宙園芸研究センター」を開設した。地球の6分の1の重力など、月ならではの条件に適した新品種の開発や、効率的な栽培技術の確立に挑む。センター長の高橋秀幸特任教授(植物生理学)は「得られた成果は宇宙での長期滞在だけでなく、地上の農業にも役立つ」と意気込む。
 
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月面農場のイメージ(JAXA提供)

 月の地下には水資源が眠っているとされる。その水から水素を取り出して燃料に利用すれば宇宙開発を有利に進められるため、各国が獲得を狙っている。日本も米国主導の月探査「アルテミス計画」に参加。月面基地を足掛かりに火星などさらに遠い天体の探査を目指している。
 高橋さんによると、2030年代には最大千人程度が月面に長期的に居住する可能性がある。ただ地球の上空400キロを周回する国際宇宙ステーション(ISS)とは違い、月は38万キロも離れている。ロケットによる物資輸送は膨大なコストがかかる上、一度に運べる量も限られるため非現実的だ。食料をどう確保するのかは大きな課題で、現地での生産が最も合理的だと言える。
 月面は地球よりも重力が小さく、大気もほぼ存在しない。約2週間おきに訪れる昼夜の温度差は200度を超え、有害な宇宙放射線にもさらされる。月の表面は養分の乏しい「レゴリス」と呼ばれる細かい砂に覆われ、種をまいても作物はうまく育たない。地球上のように日当たりの良い場所で水を与えるような栽培は通用せず、植物工場が必要となる。
 千葉大は国立大で唯一園芸学部があり、都市部での農園芸や植物工場の研究を続けてきた。宇宙園芸研究センターでは工学部の研究者も参加して新分野の開拓を進める。
 研究テーマの一つは、宇宙環境に植物がどう適応して育つかの解明。例えばキュウリの根は、宇宙の微小重力下では水分の多い方向に伸びる性質がある。
 シロイヌナズナの実験では、根を水分の多い方向に伸ばす遺伝子が特定され、この遺伝子を過剰に働かせると多くの根が水に向かって伸びることが分かっている。こうした特性を強めた作物を開発すれば、水が貴重な宇宙での栽培に適した超節水型品種となるだけでなく、地球の乾燥地帯への応用も期待できる。
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千葉大の植物工場で栽培されているイネ(千葉大提供)
 
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千葉大の植物工場で栽培されているトマト(千葉大提供)
 植物工場の無人化に取り組む後藤英司教授(環境調節工学)によると、育てる品種はイネやジャガイモ、サツマイモ、大豆、トマト、イチゴ、キュウリ、レタスが候補。土の代わりに肥料を溶かした培養液を使い、人工的な光で栽培する。
 地上ではトマトやイチゴはミツバチを介して受粉するが、植物工場では送風装置で風を吹かせて花粉を飛ばす。廃棄物を処理して肥料として再利用する研究も進め、閉鎖空間での物質循環システムを確立する。
 月面農場の実現を目指す宇宙航空研究開発機構(JAXA)きぼう利用センターの東端晃技術領域主幹は「(長期滞在を念頭に)主食となる穀類や根菜類を育てられるようにしたい」と説明。24年ごろには宇宙空間で関連の実験を行いたいとし、千葉大の研究に期待を寄せている。
地域再生大賞