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常夜灯、山車…地元の宝を守る伝統の技

 静岡市葵区の浅間通りの玄関口にある市指定有形民俗文化財「中町秋葉山常夜灯」がこのほど銅板屋根をふき替え、朽ちた木部を交換するなどの40年ぶりの大規模修繕を終えました。この常夜灯、静岡市などの助成を受け、2013年6月から文化財修理会社「祥雲」(本社・同市駿河区)が大修繕を行っていました。「祥雲」は、これまでにさまざま山車や神輿(みこし)などの修復や修繕を手がけています。文化財を守る裏方の動きをまとめました。

「秋葉山常夜灯」 静岡・浅間通りのシンボル 40年ぶり 大修繕

 静岡市葵区の浅間通りの玄関口にある市指定有形民俗文化財「中町秋葉山常夜灯」が30日までに、銅板屋根をふき替え、朽ちた木部を交換するなど40年ぶりの大規模修繕を終えた。「秋葉信仰」で防火を祈願するシンボルとして大切に守られ、江戸時代から再建や修繕を繰り返してきた。同日、神事で完成を祝った地元関係者は「自分たちの街は自分たちで守るという江戸時代からの思いや歴史を後世につなぐ」と誓った。

大規模修繕を終えた常夜灯を見上げ、祝う地元住民ら=30日午前、静岡市葵区
大規模修繕を終えた常夜灯を見上げ、祝う地元住民ら=30日午前、静岡市葵区
 常夜灯の正確な建立時期は不明だが、江戸中期の画家・土佐光成が宝永5(1708)年ごろに駿府の街を描いた「駿府鳥瞰(ちょうかん)図」にその姿が示されているほか、内部から見つかった最も古い支柱に天保13(1842)年に再建された記録が残る。
 大正期に静岡鉄道の路面電車の鷹匠-中町区間が開通すると、中町停留所付近にあった常夜灯は街のシンボルとして親しまれた。中町と馬場(ばばん)町の両自治会と静岡浅間通り商店街振興組合でつくる常夜灯保存会の原木公子理事(65)は「かつてはデートの待ち合わせ場所にもなっていた。街や住民のさまざまな歴史を語ってくれる存在」と思い起こす。周辺の再開発で行き場をなくした常夜灯は1971年に、数十メートル離れた現在地に移された。
 84年に市の文化財に指定されたことを受け、保存会が発足。修理を施すなど見守りを続けたが長年の風雨で木部の傷みが激しくなっていた。2016年に代替わりした保存会メンバーが常夜灯に電気を通したことを機に、修理の機運が高まった。市などの助成を受け、昨年6月から文化財修理会社「祥雲」(本社・同市駿河区)の工場に搬出され、大修繕が始まった。
 3月27日には、修復を終えた常夜灯がトラックで現地に到着し、クレーンで石の台座とつなぐ作業を進めた。修繕で見つかった再建や修繕の記録が残る支柱などは次回に向けて散逸しないように内部に戻した。保存会の小川保会長(79)は「文化財の修繕過程で、常夜灯が持つ歴史の重みを感じた。先輩たちがこの地に移した思いを後世に、つないでいきたい」と話した。
(社会部・吉田史弥)
〈2024.03.31 あなたの静岡新聞〉

静岡浅間神社の山車 100年ぶりの漆塗り直しを手がける

山車修復へ伝統の技 牧之原で作業

 ※2021年1月3日 静岡新聞朝刊
 明治から大正期に造られた静岡浅間神社(静岡市葵区)の山車3台の修復が牧之原市で行われている。建造以来約100年ぶりに漆を塗り直し、2021年の静岡まつりに向け完成を目指す。
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修復される高欄の部品=牧之原市

 修復しているのは、高さ3メートルを超える山車の手すり部分にあたる高欄部分。山車や神輿(みこし)修復を手掛ける祥雲(静岡市駿河区)が19年8月から、過去の応急修理でペンキが塗られた部分などを補修し、「堅地天然漆塗り」と呼ばれる伝統工法を用いて漆で塗り、組み立て直す。作業は21年3月まで続く。
 静岡浅間神社の山車は、静岡まつりなどの祭事で中心街を巡行している。祥雲の山梨由博社長は「地元の宝物を長く保存し、漆塗りの美しさを次世代に伝えたい」と話す。


山車 100年ぶり修復完了 4月1日にお披露目 ※2021年3月21日 静岡新聞朝刊
 建造以来約100年ぶりの修復作業が行われていた静岡浅間神社(静岡市葵区)の山車3台が(2021年3月)18日、同神社で組み立てられた。4月1日から神社で営まれる廿日会祭(はつかえさい)でお披露目される。
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漆を塗り直した静岡浅間神社の山車=静岡市葵区

 専門業者の祥雲(同市駿河区)が、高さ約3メートルの山車の手すり部分にあたる高欄の漆の塗り直しや、分解修理を2019年8月から行ってきた。過去の修理でペンキが塗られ、くぎが打たれた部分を修理し、国産の黒漆を塗り直すことで、深みのある色合いを出した。
 祥雲の山梨由博社長は「神事を通し、漆塗り本来の美しさを感じてもらえれば」と語った。
 

駿府踟振興会が所有する山車の修理も担当

山車2台の修復着々 形状、素材の保存に尽力 来月2日から「駿府踟勢揃い」-静岡・葵区 ※2015年9月24日 静岡新聞朝刊

 静岡市葵区の青葉通りなどで10月2~4日に開かれる徳川家康公顕彰400年事業「駿府踟(おねり)勢揃(ぞろ)い」(同区主催)を前に、駿府踟振興会が所有する山車2台の修復作業が進められている。
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暫車の車輪を修復する祥雲の職人=牧之原市の同社作業所

 「暫車(しばらくぐるま)」と「木花車(このはなぐるま)」は、いずれも大正時代に建造された高さ約5メートルの江戸重層型。
 修理を依頼された祥雲(同市駿河区)の山梨由博社長(55)は「全国的にも珍しい山車。オリジナルの形や素材、手法をできるだけ残し、次世代に伝えたい」と力を込める。
 5月に牧之原市の同社作業所に運び込まれ、傷みが目立つ足回りの車輪と車軸の修復作業や幕の付け替えが進められている。車輪のたがは、伝統的な「焼きばめ」と呼ばれる手法ではめ込んだ。
 開催期間中「暫車」は中心市街地をねり、「木花車」は新静岡セノバ前などに展示される。
 同会事務局を務める静岡浅間神社の神谷拓生禰宜(ねぎ)は「行事を山車とねりの文化を将来に残すための好機と捉えたい」と話した。

この人 静岡浅間神社が管理する山車を修復する山梨由博さん(静岡市駿河区) ※2015年9月30日 静岡新聞朝刊
 静岡市内で10月上旬に開かれる「駿府踟(ねり)勢揃(ぞろ)い」を前に、駿府踟振興会が所有する山車の修理を引き受けた。屋台の修復の他、仏具の製造販売などを手掛ける。祥雲代表。日本伝統建築技術保存会会員、55歳。

 -経緯は。
 「山車を管理している静岡浅間神社から依頼を受けた。最初は傷んでいた2台の車輪と車軸を全て取り換える予定だった。しかし、車軸と車軸受けは修復する方針に変更した」

 -方法は。
 「年月がたち、重みでゆがんだ車軸部品を蒸して、元の形に戻すなどしている。新調した車輪には堅いカシ材を用いた。欄間に彫られた鶴の欠けていた頭部も復元した。本体は大正時代の制作だが、江戸期の彫刻が含まれている可能性があることも分かった」

 -思い入れは。
 「江戸重層型と呼ばれる全国的に珍しい山車。神社造営のため、江戸期に全国から集まった職人の技法が伝承されている。制作者に負けないよう、真剣に修理しないとばちがあたる」

 -方針は。
 「2001年には神社の鳳輦(ほうれん)の修復に携わった。永遠に到達できないレベルだが、静岡浅間神社の社殿の彫刻が目標。少しでも近づきたいと、職人たちと切磋琢磨(せっさたくま)している」
     ◇
 3代続く指物師の家系。
 
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※年齢等初出掲載時のまま

頼りにされる伝統の技 他の地域での修復や改修も

建造100年に合わせ屋台大改修 磐田・中泉西町 例大祭を前にお披露目

※2017年9月25日 静岡新聞朝刊
 磐田市中泉地区で10月に開かれる府八幡宮例大祭を前に、同市中泉西町の屋台が1920年の建造以来となる大改修を終え、24日に町内でお披露目された。修復に取り組んだ同町関係者は「立派な屋台が戻り感無量。祭り本番が例年以上に楽しみ」と喜んでいる。
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1920年の建造以来の大改修を終えた西町の屋台=磐田市中泉

 同町の屋台は建造以来、解体や大きな修理をせず、近年は老朽化が目立っていた。2010年に自治会メンバーを中心に修復委員会を立ち上げ、20年の建造100年に合わせ大改修を始めた。
 伝統建築や工芸品の修復業者「祥雲」(静岡市駿河区)に修理を依頼。水銀朱という漆を使った塗装や金メッキの塗り直し、彫刻の欠損部分の補修など、約1年かけて建造当時の屋台を復元した。費用は町民の寄付で賄ったという。
 修復委員会の杉本洋さん(68)は「新調することもできたが、代々受け継がれた屋台を残すことを選んだ。次の100年、200年と子どもたちに引き継いでいってほしい」と期待を込めた。

屋台新装 次世代に託す お囃子、ラッパで祝福 浜松市中区中沢町
浜松市中区の中沢町自治会は16日夜、浜松まつりに向けて大規模改修した御殿屋台のお披露目式を同町の公民館で行った。建造から64年がたち、老朽化が進んでいた。関係住民は「屋台に乗る子どもたちの安全を守り、次世代に引き継ぐ」との思いを新たにした。
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改修が完了し、町民にお披露目された中沢町の屋台=浜松市中区の中沢町公民館

 屋台は1959年に造られ、屋根に2体の竜の彫刻があしらわれている。同町には勾配が急な坂道があり、激しい揺れで痛みが目立つようになったという。
 改修は文化財の修復を得意とする静岡市の「祥雲」(山梨由博社長)に依頼した。屋台の土台部分となる「台輪」を厚い木材で新たに造り直し、屋台内部には板を打ち込んでバランスが崩れないように強化した。彫刻を洗浄し、外側の鮮やかな赤い欄干(らんかん)は天然の漆で塗り直した。
 お披露目会で鈴木秀夫自治会長は「住民の思い出が詰まった屋台。将来にわたって大事に使いたい」と話し、山梨社長に感謝状を手渡した。屋台のちょうちんなどに明かりをともし、お囃子(はやし)の演奏とラッパ隊が花を添えた。太鼓担当の斉藤心奏さん(中部小6年)は「屋台がきれいになってうれしい。演奏を頑張る」と声を弾ませた。
〈2023.04.18 あなたの静岡新聞〉
※内容は初出掲載時のまま
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