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「紅麹」基礎まとめ 健康被害、静岡県内にも拡大

 小林製薬の「紅こうじ」のサプリメントによる健康被害問題。静岡県内でも21人(5日時点)の被害が確認され、収束が見通せません。これまでに毒性の強い青カビ由来の成分が検出されるなど、徐々に原因が分かりつつあります。紅こうじの基礎知識、「機能性表示食品」として販売されていたサプリの課題をまとめます。

静岡県内も被害確認 県など電話相談窓口設置

 静岡県は29日、小林製薬の「紅こうじ」サプリメントを巡り、県内で健康被害が疑われる患者を新たに3人確認し、うち2人は入院治療を受けたと発表した。県内で疑いのある患者は計9人になった。

小林製薬が自主回収する商品「紅麹コレステヘルプ」
小林製薬が自主回収する商品「紅麹コレステヘルプ」
 3人とも回収命令が出ている「紅麹(こうじ)コレステヘルプ」を摂取し、腎機能障害が確認されたという。県衛生課は「命が危ぶまれるような状態ではない」としている。
 健康被害を踏まえ、県と静岡、浜松両市は30、31日に電話相談窓口を設置する。いずれも午前9時から午後3時まで。問い合わせは県衛生課<電054(221)3708>、静岡市保健所<電054(249)3161>、浜松市保健所<電053(453)6114>へ。
自主点検 県内27カ所が対象  厚生労働省の資料によると、県内で自主点検の対象となったのは27の企業や工場、倉庫など(重複あり)。このうち商社を通じて小林製薬から紅こうじ原料を調達し、他社ブランドのサプリメント製品を受託製造しているAFC―HDアムスライフサイエンス(静岡市)は、小林製薬の「意図しない成分が含まれている可能性がある原料」を1月以降、1キロ分購入していたが、使用していないことを確認。当該原料は隔離保存しているとウェブページに公表した。それ以外の紅こうじ原料で製造した製品については、販売会社に自主回収を要請した。健康被害は報告されていない。
 〈2024.03.30 あなたの静岡新聞〉
※静岡県内の健康被害は4月5日時点で、計21人になりました。

「紅こうじ」サプリや着色に広く普及

 小林製薬の「紅こうじ」成分を配合したサプリメントを継続摂取したとみられる人が腎疾患で死亡しました。

※表の死亡者数は掲載日時点
※表の死亡者数は掲載日時点

Q こうじとは。
A カビの一種であるこうじ菌を穀物に混ぜて発酵させたものをこうじと呼び、みそやしょうゆといった発酵食品を造るのに利用されています。


Q 紅こうじは。
A 紅こうじ菌を米に混ぜて発酵させたものです。赤い色素が特徴で、天然の着色料として食品や飲料で広く普及しています。


Q サプリの機能は。
A 紅こうじによる成分が悪玉と呼ばれるLDLコレステロール値を低下させるとする効果をうたっていました。


Q 海外での扱いは。
A 欧州では紅こうじ由来の有毒物質「シトリニン」に起因するとみられる健康被害が報告され、スイスでは紅こうじを成分とする食品や薬品の売買は違法とされています。


Q 今回の原因は。
A 紅こうじ由来の成分摂取で健康被害が出た理由は解明されていません。小林製薬は、製品にシトリニンは含まれていないと説明し「カビ由来の未知の成分」と推測しています。

 〈2024.03.27 あなたの静岡新聞〉

被害の原因? 青カビ由来の「プベルル酸」 製造時に混入可能性

 小林製薬の「紅こうじ」を使ったサプリメントの原料から青カビがつくる天然の化合物「プベルル酸」が検出された。マウスや人の細胞で毒性も報告されており健康被害の原因となった恐れがある。ただ紅こうじ菌と青カビは種類が異なり、なぜ検出されたのかは不明。専門家は「製造工程で青カビが混入した可能性を含め調べる必要がある」と指摘する。

立ち入り検査のため小林製薬の大阪工場に入る厚労省の担当者ら=30日午前、大阪市
立ち入り検査のため小林製薬の大阪工場に入る厚労省の担当者ら=30日午前、大阪市
 厚生労働省は29日「プベルル酸がどういう経路で入ってきたかは全く分からない」と説明した。プベルル酸が健康被害の原因となった可能性を「一定程度あるが、網羅的に検討していく」とし、他の物質も含めて調べる方針だ。
 ある微生物学の専門家は「きちんとした製造工程であれば、紅こうじ菌を培養しているところに青カビが混入することはない」と話す。横尾隆・東京慈恵医大教授(腎臓・高血圧内科)も「紅こうじ菌はプベルル酸をつくらないとみられる。青カビが混入した可能性があり、製造工程を問題視するべきだろう」と衛生管理に問題があったとの見方を示す。
 今回の健康被害では腎疾患の訴えが多い。青カビ由来のペニシリンといった抗生物質は、腎臓に毒性があることが多い一方で、横尾教授によると、プベルル酸の腎臓への影響に関する報告は国内外でも見当たらない。
 プベルル酸は1932年に英国の大学の研究者らが初めて報告した。
小林製薬工場 立ち入り、4時間半  「紅こうじ」を使ったサプリメントで健康被害が相次ぐ小林製薬のかつての原料工場(大阪市淀川区)には30日午前10時50分ごろ、ワゴン車と乗用車に乗った大阪市職員5人が検査のため到着した。続いて、10人ほどのスーツ姿の厚生労働省職員が無言で敷地内に入った。
 集まった30人以上の報道陣を前に、小林製薬の担当者は「誠実に対応したい。内容についてはお話しできない」と告げた。門扉は固く閉ざされ、工場内部の様子は確認できなかった。
 夕方、検査を終えた職員らはそのままタクシーと公用車に乗り込み、検査は約4時間半に及んだ。同社の山下健司製造本部長は詳細については「差し控える」と話し、建物内へと立ち去った。
 〈2024.03.31 あなたの静岡新聞〉

「機能性表示食品」 申請しやすさ利点、企業の責任重く

 今回問題となった紅こうじサプリは、健康維持や増進をうたう機能性表示食品だった。国の審査が必要なく、企業の責任で機能性を表示できる利点がある。国が安全性を審査する特定保健用食品(トクホ)に比べると、中小事業者でも利用しやすい。

機能性表示食品の国内市場規模
機能性表示食品の国内市場規模
 調査会社の富士経済によると、2023年の機能性食品の市場規模は前年比19・3%増の6865億円となる見通し。申請の負担が軽く、18年からわずか5年で3倍超に急拡大した。トクホの関連市場が、18年の3576億円から23年には2690億円と大幅に縮小したのとは対照的だ。
 最近は脂肪に着目した製品の申請が目立つ。高まる健康意識は一段の成長に追い風だが、紅こうじサプリの品質問題で水を差された。
 そもそも機能性表示制度は15年、安倍晋三首相(当時)が掲げた成長戦略の目玉として始まった経緯がある。元消費者庁長官で、機能性表示の制度整備に関わった「消費者市民社会をつくる会」の阿南久代表理事(74)は「機能性表示食品は企業側が機能の裏付けを確保し、責任を持って販売するものだ。企業には自覚とレベルをもっと高めてもらいたい」と求めた。
 〈2024.03.29 あなたの静岡新聞〉
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