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川勝知事辞意表明 度重なった不適切発言の末に

 川勝平太静岡県知事が2日、新規採用職員への訓示で職業差別ととれる発言をしたとして批判が相次いだことを受けて、4期目の任期半ばで辞職する意向を示しました。2021年の参院静岡補選での「コシヒカリ発言」をはじめ不適切発言を重ねたほか、近年ではリニア工事を巡るJR東海批判や部分開業主張で全国的にも反発を受けてきた川勝知事の突然の辞職表明は、各方面に衝撃を与えました。経緯やリニア事業への影響について1ページにまとめました。

「野菜を売ることと違い、県職員知性高い」 職業差別と批判殺到

 川勝平太静岡県知事は2日、県庁で報道陣の取材に「6月議会をもってこの職を辞そうと思っている」と述べ、4期目の任期を約1年3カ月残して辞職する意向を示した。川勝知事は前日、新規採用職員への訓示で「県庁はシンクタンク。野菜を売るのとは違う」などと発言し、職業差別との批判が殺到していた。環境への影響を懸念して静岡工区の着工を認めてこなかったリニア中央新幹線工事にも影響する可能性がある。

記者団に対し辞職の意向を表明する川勝平太知事=2日午後、静岡県庁
記者団に対し辞職の意向を表明する川勝平太知事=2日午後、静岡県庁
  ▶【全文】川勝平太知事の新規採用職員への訓示(4月1日)
 川勝知事は1日の訓示で「毎日毎日野菜を売ったり、牛の世話をしたりとか、ものを作ったりとかということと違って、基本的に皆さま方は頭脳、知性の高い方たち。それを磨く必要がある」などと述べた。2日に一部の報道機関が報じ、県庁には400件を超える抗議の電話やメールが寄せられた。
 報道陣に対して川勝知事は2日、「職業差別はない。入庁した職員への歓迎、励ましの言葉が問題発言があったかのようになり驚いている」と釈明し、差別の意図を否定した。その取材対応の最後に辞意を表明し、真意を説明せずに立ち去った。
 2021年の参院静岡選挙区補欠選挙での「コシヒカリ発言」で、県議会から辞職勧告を受け、その際に表明した給与返上を巡って23年7月には知事不信任案が1票差で否決される事態になった。その後の記者会見などで「不適切な発言で人を傷つけるようなことになれば辞める」と述べていた。
 川勝知事は静岡文化芸術大学長など経て、09年7月に初当選し、現在4期目。各方面への歯に衣(きぬ)着せぬ発言がたびたび物議を醸した。近年はリニア工事でJR東海の姿勢を批判し、部分開業を訴えるなどして全国的にも反発を受けていた。
〈2024.04.03 あなたの静岡新聞〉

動 画

川勝知事 過去にもたびたび不適切発言で物議

ごろつき発言(2019年12月19日)

 自民会派を念頭に「やくざの集団、ごろつきがいる」(県議会会派の予算要望の場)

女性の容姿を巡る発言(2021年6月6日)
みんなきれいです。めちゃくちゃ顔のきれいな子はあまり賢いことを言わないとですね、なんとなく、もうきれいになる、きれいに見えないでしょ。ところが全部きれいに見える」(知事選期間中の富士市での集会で、かつて学長を務めた静岡文化芸術大の学生について)

コシヒカリ発言(2021年10月23日)
 「今回の補選は、静岡県の東の玄関口、人口は8万強しかないところ、その(御殿場)市長をやっていた人物(若林洋平氏)か。この80万都市、遠州の中心浜松が生んだ、市議会議員をやり、県議会議員をやり、私の弟分(山崎真之輔氏)。(中略)こういう青年。どちらを選びますか? こちら(浜松市)は食材の数も430のうち3分の2以上がある。あちら(御殿場市)はコシヒカリしかない。ただ飯だけ食って、それで農業だと思っている。こちらにはウナギがある。シラスもある。三ケ日みかんもある。肉もある。野菜もある。タマネギもある。なんでもある。もちろんギョーザもある。そういうところでですね、育んできたこの青年を選ぶのか」(浜松市で行った参院静岡選挙区補欠選挙での山崎真之輔氏に対する応援演説)

文化発言(2024年3月13日)
 「磐田っていう所は文化が高い。浜松よりもともと高かった」(サッカー女子なでしこリーグ1部の静岡SSUボニータによる表敬訪問)
 「藤枝東高は(生徒が)サッカーをするためにやってきている。ボールを蹴ることが一番重要。勉強よりも何よりも」(ボニータ関係者との懇談)

職業差別発言(2024年4月1日)
 
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 「県庁はシンクタンク。野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノを作ったりとかと違い、皆さまは頭脳、知性の高い人たち」(県の新規採用職員への訓示)

給与未返上問題で不信任決議案も… 知事の言動巡り、23年度の静岡県議会紛糾

 川勝平太知事の言動を巡って混乱が続いた2023年度の静岡県議会が終了した。18日閉会した2月定例会は予算案の可決にこぎ着けたが、知事の危機管理姿勢が物議を醸し、「磐田は浜松より文化が高かった」との発言が新たな火種となった。最大会派自民改革会議と知事の溝は深まるばかりで、次期知事選を見据えて議会のさらなる緊迫化は避けられない情勢だ。

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 ■強硬論
 「反省どころかエスカレートしている。一刻も早く混乱から脱却して新しい静岡県をつくりたい」。2月定例会閉会後、記者団の取材に応じた自民会派の増田享大代表は語気を強めた。閉会日直前の知事の「文化発言」には「特定の地域を侮蔑するひどい発言。県民の思いを受けて行動するのが議会の使命だ」と述べ、閉会中審査で追及する可能性に言及した。
 2月定例会は連日、知事の危機管理姿勢が問題視された。年明け早々、能登半島地震の首長会議を欠席。自民と公明党県議団が抗議を申し入れ、県外での大規模災害時に「責任ある行動」を求める決議案を全会一致で可決した。
 そのさなかに飛び出した文化発言。知事はかねて「今後、不適切発言をした場合は辞職する」と主張し、自民会派の一部には「不信任や辞職勧告決議案を出すべき」などと強硬論もあったが、ひとまず当事者の反応を見極める方針に落ち着いた。
 23年度の県議会は知事の言動を巡りたびたび紛糾した。6月定例会はいわゆる「コシヒカリ発言」を巡る給与未返上問題で知事不信任決議案が提出された。9月定例会は「東アジア文化都市のレガシー(遺産)拠点を三島市の国有地に置きたい」との発言で議会が空転。12月定例会で知事は訂正に応じないと明言したが、県議会の反発を受け謝罪と撤回に追い込まれた。

 ■煮え湯
 攻勢をかける自民。視線の先には来年の知事選がある。過去何度も煮え湯を飲まされただけに「いかに知事が不適格かを県民に発信し続ける」(ベテラン)。今後も一貫して辞職を求める姿勢は変わらず、再度の不信任決議案提出というシナリオも現実味を帯びる。
 公明会派も対決姿勢を強める。2月定例会最終本会議で登壇した盛月寿美氏は「県議会との信頼関係は崩れている。人や自治体を自分の勝手な基準で評価し、思いのままに発言、行動する姿はもう見たくない」と切り捨てた。
 一方、知事を支える第2会派ふじのくに県民クラブ。18日に会見した田口章会長は「これまでも不要な発言はしないよう伝えてきた。これ以上は続けてほしくない」と苦言を呈し、「(県民から)厳しい声が増えてきている気がする」とも述べた。不信任決議案はわずか1票差で否決されただけに、ふじ会派の動向が注目される。
 (政治部・森田憲吾)
〈2024.03.19 あなたの静岡新聞〉

静岡県のリニア対応に影響不可避 県内外関係者、事業前進に期待と不安

 2日に辞職の意向を表明した川勝平太知事は、静岡県内でのリニア中央新幹線トンネル工事を巡り、JR東海に大井川水資源や南アルプス自然環境の保全に入念な対策を求め、応じるまでは県内での工事を認めない姿勢を貫いてきた。任期途中の辞意を示したことで、関係者の間ではリニア事業前進への期待と、今後の見通しへの不安が交錯。多くの人が「県のリニア対応の大きな転換点になる」との見方を示した。

リニア中央新幹線建設についての初会談で、静岡県庁に到着した当時のJR東海・金子慎社長(右)を出迎える川勝平太知事=2020年6月26日
リニア中央新幹線建設についての初会談で、静岡県庁に到着した当時のJR東海・金子慎社長(右)を出迎える川勝平太知事=2020年6月26日
 リニア問題に関する県有識者会議専門部会委員の1人は、知事の突然の辞意表明に「次の専門部会に向けてJRと協議している最中。投げ出しと受け取られてもしょうがない」と戸惑いを口にした。「これまでの議論の継続性がある」と、県がすぐに主張を転換することに否定的な見方を示しつつ「議論の方向性が変わることは間違いない」と見解を述べた。
 県は4月から、川勝知事の強い意向で南アルプス環境保全の担当部長を新たに設け、リニア問題への対応を強化したばかりだった。県のある幹部は「リニア対応の組織的規模は縮小せざるを得ない」との見方を示した。
 大井川の表流水や地下水を利用して生活している流域10市町と利水団体は18年8月、JRに着実な保全策の実施を求め、大井川利水関係協議会を組織した。県は同協議会を代表して同社と交渉する立場だが、21年12月に国が大井川水資源の保全に関する報告書を取りまとめて以降は、川勝知事と流域市町の首長の間で認識の違いが表面化していった。
 JRは3月29日、県内での工事の見込みが立たないことを理由に品川―名古屋間の27年開業の断念を表明。静岡工区の工期を10年程度と想定し、開業は早くても34年以降になると明らかにした。川勝知事は静岡工区の工事期間が明確になったことを評価し、持論の「部分開業」をリニア建設促進期成同盟会で主張することに意欲を示すコメントを発表していた。
 川勝知事の姿勢を応援してきた関係者は「JRの表明を一区切りと捉えたのか。真意が分からない」と戸惑い、今後の環境保全を巡る議論の行方を注視するとした。
 (政治部・尾原崇也)

 「障壁なくなる」県外 歓迎の声
 川勝知事が辞意を表明したことで、県外のリニア関係者は「最大の障壁がなくなる」と語り、計画の前進に向けて期待感を示した。国土交通省の幹部も「朗報だ」と喜んだが、次の知事選を警戒する声もあった。
 「長野県駅(仮称)」が設置予定の長野県飯田市では、飯田商工会議所の原勉会頭(74)が「一つの石が取り除かれた」と表現。リニア開通の不透明感が払拭され、出遅れていた地元への投資が活発になることを期待し「地域の発展に向け対応したい」と意気込んだ。
 沿線自治体で早期開業を求めている神奈川県の幹部は「報道によると、次に何か失言したら辞めるとのことだった。有言実行だ」とした上で「早期開業へのハードルが低くなった」と今後の進展に期待した。
 JR東海は先月29日、国交省であった有識者会議で、品川-名古屋間の27年開業の断念を表明。工期は10年程度と見込み、開業は早くても34年以降になる見通しとなっている。
 焦点は次の知事選だ。着工に賛同する候補の当選が早期開業の条件となる。山梨県駅(仮称)を設置予定の甲府市選出の自民党県議は「新しい知事が着工を進めるよう期待する」と語った。政府関係者は「川勝氏は既に後継候補を準備しているのではないか。知事選で負けたら元も子もない」と話した。

 JRコメントせず
 JR東海は2日、取材に対し、川勝知事の辞意表明に関して「報道は承知しているがコメントを出す立場にない」と説明した。
〈2024.04.03 あなたの静岡新聞〉
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