ゴールデンウイークどう過ごす? 静岡県内の美術館、博物館巡りのススメ
ゴールデンウイークが始まりました。どこかに出かける計画を立てた人も、予定が決まっていない人も、静岡県内の美術館や博物館を訪ねて、貴重な重要文化財や美術品、絵画、かわいらしい写真、アートの数々に触れてみるのはいかがでしょう。皆さまのおでかけの参考になるような、特色ある企画展をいくつかご紹介します。
【静岡市美術館】京都の細見家三代の美術コレクション名品が一堂に!
昭和の実業家・細見良に始まる細見家三代のコレクションを収めた細見美術館(京都市左京区)の名品展が13日、静岡市美術館(葵区)で始まる。重要文化財8件を含む104件から、代表作4点を紹介する。
江戸時代中期に京都で活躍した伊藤若冲(1716~1800年)は家業の傍ら、狩野派や中国古画などを独学で修めた。40歳で弟に家督を譲って画業に専念、濃密な色彩の花鳥画から墨の濃淡を巧みに生かした水墨画まで多彩で独自性の高い絵画を描いた。
雪景色の中、餌を探し歩む雄鶏を描いた本作は、「景和」の落款(らっかん)から30代前半の若冲初期作とされ、鶏の姿態は古画の模写が指摘される。しかし、鶏冠(とさか)や趾(あしゆび)などは写実的で、特に羽毛の表現は首や背の赤や黄、白、黒色を幾重にも重ねた細長い羽、腹や腿(もも)の柔らかな羽毛、躍動的な尾羽とそれぞれの質感や色合いを精緻かつ丁寧に描き分ける。
地面には雪をかぶった菊が懸命に黄色の花を咲かせ、周囲の竹は屈折してつるのように絡み合い、積もった雪は今にも滴り落ちそうだ。若冲が京都・相国寺に奉納した傑作《動植綵絵(どうしょくさいえ)》(皇居三の丸尚蔵館)に先立つ作品といえる。
本展では若冲の初期から晩年まで細見美術館が所蔵する全19件が勢ぞろいする。
葛飾北斎《五美人図》 髪形、服装に見る身分差
呉服店の風呂敷の包みにもたれて頬づえをつき、広げた赤い反物を眺める女性。画中の賛に「正月」の語があり、新年に向けて仕立てる着物を選ぶ様子か。振り袖に後ろに長く垂らした赤い帯、島田髷(まげ)に結われた赤い絞りの手柄から未婚の若い娘とわかる。
江戸時代の女性は身分や職業、年齢や婚姻の有無などで髪形や化粧、服装が異なっていた。例えば左側の女性2人のうち、敷物に座し煙管(きせる)を手にした女性は年かさらしい落ち着いた色味の着物に、既婚者が結う丸まげにお歯黒、眉もそっており、布地を選ぶ娘の母親であろう。
傍らにはべる女性は髪に挿した結髪(けっぱつ)用の櫛(くし)から女髪結(おんなかみゆい)とわかる。女髪結は顧客の所に出向き髪を結ういわば美容師。髪結を頼むのは当時大変ぜいたくなおしゃれであり、本図では女髪結を描くことで母娘の裕福さを示す。
落款(らっかん)の「葛飾北斎画」から江戸後期に活躍した人気浮世絵師・葛飾北斎の文化年間(1804~18年)、50歳前後の作と推定されている。
神坂雪佳《金魚玉図》 受け継がれる琳派の技
ゆらゆらと尾をゆらし、こちらを見つめる金魚。真正面から金魚を捉えた本図は一度見たら忘れられないユニークかつ大胆な作品である。
金魚を囲う白い円は、金魚を入れて軒先などにつるすガラスの容器・金魚玉。下半分に大きく余白を取った見事な構成で、周囲には揺れる釣忍(つりしのぶ)、掛け軸の表装には簾(すだれ)に見立てた裂をあしらった、盛夏に飾るにふさわしい涼を感じる作品となっている。
江戸時代初期、本阿弥光悦、俵屋宗達らが起こした新様式は後に「琳派」と呼ばれ、以降、近代にいたるまで組織による継承ではなく私淑により断続的に形成されていった。本図を描いた神坂雪佳(せっか=1866~1942年)は近代・京都で活躍した画家・図案家。はじめ四条派の画技を習得、岸光景のもとで工芸図案を学ぶなかで琳派に傾倒した。
金魚の形は輪郭線を描かない没骨法(もっこつほう)、模様を金泥のにじみ(たらし込み)で表す。琳派でよく用いられる技法だが雪佳の卓越した筆さばきと計算された構図力が光る。
重要文化財《金銅春日神鹿御正体》 愛らしく凜とした表情
神護景雲(じんごけいうん)2(768)年、春日明神が常陸国(ひたちのくに)鹿島から白鹿に乗り大和国御蓋山(みかさやま)に影向(ようごう)したという信仰に基づく「春日鹿曼荼羅(まんだら)」を立体化した珍しい作品。総高約1メートルで、雲に乗り飛来する神鹿の背に立つ榊(さかき)には神体の鏡が掲げられ、鏡面に春日社本殿と若宮の本地仏(一宮・阿弥陀/二宮・薬師/三宮・地蔵/四宮・十一面観音/若宮・文殊)を線刻した五つの小円相が配される。
日本では平安時代以降、神仏習合(神と仏は本来一体のもの)、本地垂迹(ほんちすいじゃく=仏が衆生を救うために神の姿を借りて現れる)の考えが広まり、本作のように神体の鏡に神の本地として仏の姿を描き礼拝の対象としたものを「御正体(みしょうたい)」という。
神鹿の愛らしくも凜(りん)とした表情や今にも動き出しそうな体、背の装飾馬具、別鋳の角はきわめて写実的で、よく見ると榊の葉には虫食いもある。これまで南北朝期の作とされてきたが、近年、小円相に刻まれた本地仏の肥痩に富む線や馬具の特徴から鎌倉末期にまでさかのぼる可能性が指摘されている。
※展示は4月27日から
(大石沙織・静岡市美術館学芸員)
静岡市美術館 「京都 細見美術館の名品」展
■会期 4月13日~5月26日。休館日は4月15日、22日、5月7日、13日、20日
■会場 静岡市美術館=静岡市葵区紺屋町17の1 葵タワー3階<電054(273)1515>
■開館時間 午前10時~午後7時
■観覧料 一般1400円(前売り、団体1200円)高校生・大学生・70歳以上1000円(同800円)中学生以下無料
■主催 静岡市、静岡市美術館、静岡市文化振興財団、静岡新聞社・静岡放送
〈2024.04.02~05 あなたの静岡新聞〉
【長泉・ビュフェ美術館】戦後パリの風景画ずらり 11月まで特別展
ベルナール・ビュフェ美術館(長泉町)別館企画展示室で6日、フランスの画家ベルナール・ビュフェ(1928~99年)が過ごした第2次世界大戦後のパリをテーマにした特別展「ビュフェのパリ カフェと映画と音楽と」が始まった。11月24日まで。
21日午後2時からは三島市民生涯学習センターで批評家、文筆家の中村高朗多摩美術大名誉教授による講演会「ビュフェと文学者たちとの交流-そしてビュフェの再評価について」を開く。定員150人。参加無料。予約は同美術館<電055(986)1300>へ。
〈2024.04.07 あなたの静岡新聞〉
【磐田・香りの博物館】世界の子猫、集合だニャン 写真家・岩合光昭さん作品展
世界各地のネコを撮り続ける動物写真家岩合光昭さんの作品展「こねこ」(静岡新聞社・静岡放送後援)が6月23日まで、磐田市立野の香りの博物館で開かれている。子猫の愛らしい姿を現地の景色とともに楽しめる約70点を展示した。
4月21日、5月19日、6月9日の午前10時半から、猫のイラストを記した缶バッジを作るイベントを開く。問い合わせなどは同館<電0538(36)8891>へ。
〈2024.04.20 あなたの静岡新聞〉
【静岡・駿府博物館】針金とフェルトで独創的な世界 作家2人「いのち吹き込む」
針金人形作家MASASHIさんと、立体フェルト刺しゅう作家PieniSieniさんによる作品展「素材にいのちを吹き込む-針金とフェルトの世界」(駿府博物館、静岡新聞社・静岡放送主催)が27日、静岡市駿河区の同館でスタートする。身近な素材を使って地道な作業を繰り返し、特徴を生かした独創的な世界を繰り広げる2人に、制作の過程や作品の見どころを聞いた。
色や質感 実物のように
立体フェルト刺しゅう作家 PieniSieniさん
家のあれこれをハンドメードでそろえているうちに立体フェルト刺しゅうにたどり着きました。図鑑をじっと観察して、どうやったら表現できるか、何度も頭の中で考え、試行錯誤を繰り返して作品を仕上げます。“研究”に近いですね。
型紙代わりにフェルトシートを切り、刺しゅう糸を通した針を刺していきます。フェルトも刺しゅう糸も、どこでも手に入る素材です。でも、実物のような色や質感に近づけることは簡単ではありません。
刺しゅうというと、枠を使ってチクチク針を刺すイメージを持たれますが、枠は使いません。だから私の技法を「オフフープ」と呼んでいます。もっと伝統的な立体刺しゅうの作り方もあるのですが、私は自分の感性を信じて独学でここまできました。
多くの人に「美しい」と感じてもらえる植物から、グロテスクな昆虫まで、幅広いモチーフがそろっています。立体刺しゅうの奥深さを知っていただけたらうれしいです。
感情が表れたら「完成」
針金人形作家 MASASHIさん
幼い頃、モールの束を手にした時から制作が始まりました。浮かんできたデザインをスケッチしてから形にしていきます。
制作には20本のペンチやニッパーに加え、自作の工具約30種類を使います。美しい処理を施すことだけには絶対的な自信があります。皮膜や鉄に傷が付いたり、少しでも間隔に隙間があったりすると、たとえ完成間近でもやり直します。巻き方は左右対照、全て同じ巻き数になるように処理しています。ぜひさまざまな角度から緻密な処理を見てみてください。
針金には無機質で冷たいイメージがあるかもしれません。でも人形には表情があります。感情を読み取ることができた時、一つの作品が「完成」を迎えます。命が宿ったような気がするのです。
自分が作りたいものを立体的に形にしています。それぞれの人形の世界にストーリーはおぼろげながら存在しますが、あえてそれはお伝えしません。自由に鑑賞していただけたらうれしいです。
「素材にいのちを吹き込む-針金とフェルトの世界」 ■会期 4月27日~6月16日
■会場 駿府博物館 静岡市駿河区登呂3の1の1
<電054(284)3216>
■開館 午前10時~午後5時(入館は午後4時半まで)。月曜休館。月曜が祝日の場合は開館、翌日休館
■観覧料 高校生以上800円
主催 駿府博物館
静岡新聞社・静岡放送
〈2024.04.23 あなたの静岡新聞〉