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“世界の”高畑勲監督がどんな思考でアニメを作ってきたのかを知る「高畑勲展」/静岡市美術館

SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は、現在静岡市美術館で展示も開催中の高畑勲監督についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

世界に影響を与えた高畑勲監督

高畑勲監督というと、スタジオジブリで宮崎駿監督と一緒に素晴らしい作品を作ってきた人と認識している方が多いと思うんですが、遡ると、日本のアニメが今のような方向性を持つようになったそもそものきっかけが高畑勲監督の存在によるものだといっても過言ではない方なんです。

例えば、アニメがまだ子どものものだと思われていた時代に、自分と志を同じくする仲間はどこにいるんだという、ティーンエイジャーの心に訴えかけるような作品を、1968年の段階で作っています。『太陽の王子ホルスの大冒険』という作品がそれにあたります。ティーンエイジャーの悩みのようなものをアニメーションのテーマに取り込んだ極初期の作品になります。

また、1974年には『アルプスの少女ハイジ』を手掛けます。アニメは、実写と違い絵だからこそ、自由に想像力を膨らませられるファンタジーが向いていると思われていた時代に、実際にそこにある生活や、地味に見えるも仕草などを、丁寧に描くことにもアニメーションに意味があるんだということを『ハイジ』を通して証明してくれました。

京アニ(アニメ制作会社の京都アニメーション)などの作品に見られる、例えば女の子が髪を結ぶ仕草のような、当たり前の何てことない動作をきっちり描くことでキャラクターの魅力や存在感にリアリティを与えるという手法は、この『ハイジ』に源流を求めることができます。

高畑監督は、アニメーションを語るにあたり、落語の所作に言及しています。落語の所作は完全にリアルな動きではなく、ある程度記号化されているものなのですが、その記号化が巧みであれば、「そうそう、お酒飲むときこういう感じだよね」とか「そばをすするときときこういう感じだよね」という、「本物っぽい」と共感する感情が起こるわけです。アニメーションにおける演技にも、そういう可能性があるんだと言っています。

線で写し取り記号化されることによって、そういう効果が生まれます。実写では普通の動作として見過ごされてしまうものが、アニメ化されて線による表現になったとき、それが際立つんだという言い方を、高畑監督はしているわけです。絵で描くからこそ生まれるリアリティ、本物らしさ。そのようなことを『アルプスの少女ハイジ』以降高畑監督は追及していきます。

その極致が『おもひでぽろぽろ』(1991年)です。背景美術の書き込みも秀逸ですし、それまでとはキャラクターの描き方を変えようと、いくつかの挑戦をし、顔の筋肉を描いています。表情が変わるときは筋肉が立体的に動いてるのであって、目や口などのパーツが変形しているのではないという考え方です。ここで、ある種のリアリズム志向はピークに達します。

その後、逆に方向性が大きく振れ、リアルというより、クロッキーみたいなラフな絵だけど、線に生命感を感じさせる絵の方向を追求していきます。従来のアニメではできなかったけれど、コンピューターを使えばそれがアニメーションでできるのではないかということで、『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999年)や『かぐや姫の物語』(2013年)が作られます。

『かぐや姫』は鉛筆のタッチが残ったような荒いラインで描いていて、背景もそういうスタイルで描かれています。セルアニメだと線をセル画に転写(トレース)する都合上、ある程度均質な線でないとダメです。ところが、コンピュータだったらそのまま鉛筆の描線が扱えるのではないかという発想を、高畑監督は他の人よりも早く持っていたわけです。

高畑監督が『かぐや姫の物語』を作ったことによって、ディズニーやピクサーみたいなスタイルじゃない長編アニメがあってもいいと周知され、ここ10年ぐらいで世界中で長編製作が増えました。高畑監督は日本のアニメだけではなく、世界のアニメにも影響を与えているんですね。

高畑監督がどういう思考で作品を作ってきたかを追える展示になっているので、ぜひ静岡市美術館へ行ってみてください。その巨大さを実感していただければと思います。

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