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河治良幸

サッカージャーナリスト河治良幸

後世に語り継がれる伝説の川崎F戦。ジュビロ磐田の5−4勝利を演出した“4つのポイント”


ジュビロ磐田はJ1第2節で川崎フロンターレと対戦。開幕戦でヴィッセル神戸に完敗を喫したが、昨年の天皇杯王者であり、ここ7年で4度のリーグタイトルを獲得している強豪にアウエーの地で勇敢に挑み、Jリーグの歴史に残る激闘を制した。

「開幕戦の敗戦後、しっかり選手がトレーニングに向き合ってくれた。そのものが出る。選手たちは恐れずにやってくれた」

そう横内昭展監督も振り返る試合の主役は間違いなくPKの2発を含む4得点のジャーメイン良だが、振り返れば多くの要因がある中で、勝利に導いた四つの選択を筆者の視点で抜き出した。

①中村駿の前向きなパス出し

キックオフから積極的にパスを繋いで攻めに出た磐田だが、川崎がハイプレスで対抗。開始3分には相手の守備にハメられた状況で、やや強引に繋ぎに行ったところを川崎ボールにされて、大きなピンチになりかけた。結果的には一度跳ね返したボールがMF脇坂泰斗に入ったところをリカリルド・グラッサが倒す形で川崎のFKに。危険な位置だったが、脇坂のキックはクロスバーを越えた。

前半6分に先制点となる初ゴールを決めた植村洋斗は「いやなんかもう、自分なんかはプレッシャー来てるから、蹴ればいいんじゃねえかみたいに思ってたんですけど(笑)」と振り返るが、磐田で初スタメンとなったMF中村駿は「僕としては問題ないでしょって感覚だった」と語る通り、その後も積極的に縦パスを入れて磐田の攻撃を前向きにした。

植村のゴールは松原のクロスがファーサイドに流れたところを植村が拾って持ち込んだ形だったが、中村に象徴される前向きなプレーが生んだゴールであり、前半の3ゴールにつながったのは間違いない。

②川島永嗣の流れを引き寄せるビッグセーブ

植村による先制点の後、さらにジャーメインの2得点で、磐田は3−0とリードを奪うのだが、実は2点目を取る直前に大きなピンチがあった。左からマルシーニョがドリブルを仕掛ける間に、右ウイングから流れてきた家長昭博が外側を回ってパスを受けて、ゴール左脇の至近距離から左足でシュートを放った。これを川島が鋭い反応ではじき、上原が大きくクリアした。

「自分の中ではまだまだ。やっぱり試合をやりながら感覚を研ぎ澄まさないといけない」と語る川島だが、日本代表でも「キーパーがひとつ耐えて流れを引き寄せる」というのをモットーにしていた守護神の真骨頂であり、2分後にジャーメインによるゴールが生まれたプロセスにもなったビッグセーブだった。

③マテウス・ペイショットと古川陽介の投入

一度は3−0とリードを奪った磐田だったが、前半のうちに新外国人FWエリソンのゴールで1点を返されて、後半にエリソンの2点目、さらにマルシーニョに決められて3−3の振り出しに。

ホームのサポーターも沸く中で、磐田にとっては明らかに苦しい状況だったが、横内監督はジャーメインを残したままFWのマテウス・ペイショット、そして平川に代えてドリブラーの古川陽介を投入して勝負をかけた。

それに応えるように、ペイショットが高い位置のポストプレーでチャンスを生めば、古川も左から仕掛けてチャンスを作るなど、守備のリスクに向き合いながらも、磐田のベクトルを再び前に向かせた。

ジャーメインの3点目となる勝ち越しのPKは植村の鮮やかなスルーパスにジャーメインが抜け出し、GKのチョン・ソンリョンに倒された形だったが、相手センターバックがペイショット側に引っ張られていた。

その裏返しのように、川崎にPKで4−4の同点とされてしまうが、5点目につながるPKもロングボールをペイショットが落として、ジャーメインが飛び出したところで獲得したPKだった。

ジャーメインも「ペイショットが入って、起点を作ってくれたので、僕も前向きでプレーできる回数が増えた」と語るが、何より横内監督の前向きな選択が生んだ流れでもある。

④上原力也のキャプテンシー

後半アディショナルタイムに生まれたPKによる5点目はサッカーの試合でレアケースの判定が絡んだ。ペイショットの落としを背後で受けたジャーメインが、混戦を抜け出して流れの中でゴールネットを揺らしたが、その後VARチェックでレフェリーによるオンフィールド・レビュー(OFR)となった。

結果は相手のハンドによるPK。ピッチ上の選手たちはもちろん、磐田のゴール裏も騒然となった。しかし、瀬川祐輔の手に当たったボールがジャーメインの手にも当たっており、ジャッジは正しい。

ここで途中交代の山田大記からキャプテンマークを受け継いでいた上原力也が冷静にレフェリーの説明を受けて、選手たちに伝えた。ジャーメインも納得してペナルティスポットに向かうと、左足でゴール左に決めた。

一度は興奮した状態からすぐ冷静になるのは難しいはずだが、上原の振る舞いがジャーメインを含む周りの選手たち、そしてゴール裏からチームを後押しするサポーターにも伝わる形で、ジャーメインのPKゴールにつながったことはこの試合の勝ち点3だけでなく、今後にもプラスの影響をもたらすはずだ。

<河治良幸>
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。 サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。著書は「ジャイアントキリングはキセキじゃない」(東邦出版)「勝負のスイッチ」(白夜書房)「解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る」(内外出版社)など。
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タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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