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【元号「令和」選定の舞台裏】発表直後報じられた6案とは別に、3案が提示されていた!どんな案?なぜ却下?「令和」に馴染んできた今、改めてその由来に注目!

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「元号・令和選定の舞台裏」。先生役は静岡新聞の橋本和之論説委員長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年4月23日放送)
 
(橋本)元号「令和」をめぐり、当時の安倍政権で首相秘書官を務めた今井尚哉氏が、2019年4月1日の発表前、元号選定の実務を担う事務方とは別に、日本古典由来の元号案「佳桜(かおう)」など3案を安倍晋三首相に独自に提示していたことが政府関係者への取材で分かりました。このニュースは先週末に共同通信が配信した記事で、全国の新聞社が取り上げました。

令和の元号が発表されたのは、2019年4月1日で、実際に平成から令和に移行したのが、天皇陛下が即位した5月1日ですね。

新元号の発表は当時の官房長官だった菅義偉元首相が行い、墨で書いた字を掲げる姿がテレビ中継されたので、覚えている方も多いと思います。

発表直後に、令和が六つの最終案の中から選ばれたということが報道されました。先ほどの記事によると、その六つ以外にも、今井さんが万葉集などの研究が盛んな國學院大学の関係者に依頼して、首相に提示していたとわかったということです。

(山田)今回、その六つ以外の3案もあったというニュースが上がってきたわけですね。
 
(橋本)まずその六つ最終候補に残った、「令和」以外のものを紹介します。「英弘(えいこう)」、それから「広至(こうし)」。

(山田)…結構なんか堅い感じですね。

(橋本)あとは「久化(きゅうか)」、「万和(ばんな)」、「万保(ばんぽう)」。

令和を含めて先に紹介した三つが日本の古典「国書」、あとの三つが中国の古典「漢籍」を典拠にしたものだそうです。​

(山田)ほう。

(橋本)令和というのは、日本最初の元号である645年の大化の改新で知られる「大化」から数えて248番目だそうですが、日本の古典を典拠とした元号としては初めてということで、当時も話題になりました。

新たに分かった三つの案とは…?

(山田)今回新たに取材でわかった別の三つは。

「佳桜」「桜花(おうか)」「知道(ちどう)」です。佳桜と桜花は万葉集を典拠とし、知道は国書でも漢籍でもなく、新たに作った造語だということです。

記事によると、当時、元号の選定を担当してた事務方が案を絞り込み、70ぐらいあったものを五つぐらいに絞り込んだそうなんです。最終案にあった「万和」が、事務方としては最有力だと見ていたそうです。

出典は前漢の歴史家、司馬遷の「史記」から取ってるそうで、漢籍ですね。ただ、安倍首相には「国書から新たな元号を決めたい」という思いが強くあったそうです。あと、濁音が入っていることもあまり良くないということで、乗り気じゃなかったそうです。

そこで側近中の側近だった今井さんに相談し、今井さんは安倍首相の国書から決めたいという意を汲んで、別の専門家に頼んで案を出してもらって、安倍首相に報告した流れだということのようです。

(山田)へぇー。

(橋本)安倍首相は特に、「佳桜」を気に入ったというような話もあります。

(山田)でも、それにはならなかったということですが、その辺もちょっと教えてください。なぜ決まらなかった?

(橋本)元号を決める際、いくつか条件があり、簡単か、他に一般的に使われていない言葉か、などをチェックをするわけですね。

「佳桜」は、後に天武天皇となる大海人皇子という方が、吉野に都から出家して移り住んで読んだ歌が元になっているそうです。その大海人皇子は兄の天智天皇が崩御した後、吉野で挙兵して壬申の乱を起こして、内乱になります。ですから、その歌そのものが内乱を想起させる、みたいなことを言われかねないということです。

(山田)そこまで考えるんですね。

(橋本)他の二つも、例えば「桜花」をインターネットで調べると、結構上の方に、第2次世界大戦中の特攻兵器の名前として出てきます。このことも影響しているかもしれません。

「知道」は、中国語の動詞で「知っている」「承知している」という意味になるそうです。そうしたことも考慮して、いずれもちょっと選ばれるには至らなかったということでしょうね。

(山田)なんかどれもいい言葉のように感じるんですけどもね。

(橋本)そうですね。ただ、今井さんは取材に対し、「国書で良い案はまだまだある、もう少し考えましょうということを伝えるために案を出した」、つまり、その三つの中から決めてくれということではなかったということを話しています。そういう意味からすると、最終的に令和という案が出てきたことで、ある程度、今井さんの狙い通りになったのかも知れません。

(山田)なるほど。

「令和」は、最終案に追加された案だった!

(橋本)最終案は、先ほど紹介した令和以外の五つの案に絞られていたんですが、安倍さんが「国書が出典のもので何かいいのはないか」ともう1度専門家に問いかけて、令和が出てきて最終的に6案になったそうです。

(山田)そこまで安倍さんは、国書の言葉で新元号というところにこだわったんですか。

(橋本)安倍さんが最初に総理大臣になったときに掲げたキャッチフレーズに「美しい国、日本」というのがありましたね。外国から入れたものではなく、日本オリジナルのものという思いがおそらくあったんだと思います。

少しうがった見方をすると、政治的に安倍元首相の支持層というのはいわゆる保守層だと言われていましたよね。国書からというのは、そうした保守を自認する人たちの意向にも合うという思いがあったかもしれません。

(山田)なんか令和って、そういう流れを汲んで、なってるんですね。

(橋本)ただ、元々日本の古典は中国からの影響を受けています。当時の文化人は、漢籍を学んで、それを踏まえて歌を作ったり文書を書いたりしているので、国書を典拠にしても、結局は漢籍に繋がってるみたいなことがあります。国書を典拠にした元号候補でも、結局は漢籍にも同じような表現があるよと指摘する専門家もいらっしゃるんです。

実際、令和も万葉集の梅花の歌、三十二首の序文から取ったということになってるんですが、この記述自体、中国の昔の詩に似たような表現があるそうです。ですから当時、その序文を書いた人がもしかしたら漢詩も学んでいて、それが反映されているという可能性もあるわけです。全く漢籍と関係ないとは言い切れないと言う事ではないでしょうか。

なぜ、新元号になって6年目に新事実が…⁉


(山田)でも令和6年になってこの話題が出てくるのも、ちょっと興味深かったんですけど。

(橋本)そうですね。今井さんが元号選定に絡んだ経緯というのを、少し前に一部の雑誌も報じていたようです。今回、共同通信がどういう経緯で記事にしたかはわかりませんが、おそらく、今井さんに直接取材することができたので記事になったのかなと思います。

ただ、根本には新元号の選定が秘密裏に行われて、発表まで一切その過程や内容が明らかにならない中で決まっているということがあります。

後からこういうことがわかったと報道されるのは、そういう全部秘密に行われてオープンにされない中で決まっていくから、ということがあると思うんですよ。

(山田)やっぱり、そこを知りたいって方も多くいらっしゃる。

(橋本)そうですね。天皇陛下の崩御に伴う改元だと、時間がない中で緊急に決めなくてはならないので秘密裏に決めてきたということがあったと思うんですが、平成から令和になる時は時間的な余裕もあったので、もう少しオープンな形でやろうと思えばできたのではないかなという気もしますよね。

この先、元号がどういうことになるかわかりませんが、皇室の継承策についても国で議論され始めていますので、元号のあり方・決め方も、もしかしたら検討すべき時代にきているのかなと思います。

(山田)というわけで、元号に興味をそそられるような、そしてまた歴史にも興味が湧くニュースでした。今日の勉強はこれでおしまい!

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